その四方からは二重に囲むように仕掛けられていた。その周りにもアメリカンフットボールのスクリメージラインを形成する時のクラウチングスタートの姿勢を幾つもの分裂したマーカスが取っている。
「貴様!盗んだ鞄を返すんだ!」誰か数人のマーカスが言った。
「今は持っていないよ」レイノルズは少し腰を屈め両手を拡げるように前にかざした。その瞬間はまるで軟体の動き、力の抜けた身のこなしである。
透視された見取り図で通点を読む。柔気合術の骨頂である。「傾ける力だ!」レイノルズは喉の奥で呟く。両手の人差し指で相手を持ち上げた。
「もっとだ!」続けて今度はレイノルズは心の中で声を張った。肩膝ついた姿勢から起き上がりながら両手の人差し指を上に向けた。「なんだか回りたいんだろ?おさん方は・・」
レイノルズは人差し指で皿を回す動作をした。「おっさんだと?」ダドリーが目を剥いた。「そう。なんだかロートルって感じがするからさ」「年は変わらねぇよ」「小僧と言った・・」
 その瞬間にダドリーは舞う。見えることなく辺りに散っていた。遠く近く瞬間に現れる物に動く気配などない。上から下から斜めから、視線を左右に振らせ至る所から瞬時に立ち現われる。
知覚を言葉にする観念までを一切この場から奪い孤立へ導く囲い込みである。