それまで、切り替え突出器の部分、ボタンかスイッチを掌に持つだけで作動した。配線で繋がれた的を握り、上向けるだけでも作動した。

 嵌めるというより両手に取り付けた。両手を広げ掌を前方に向けた。その数体の立体は床を離れ浮き上がった。
両手を広げたままで掌を仰向けた。その立体は一つが天井に近くまで上がった。「おわっと・・」冷や汗が体に滲み咄嗟に拳を握り
両腕を腰の真横に腕を下ろした。プリズムは静かに床に転がった。

 次の日に目が覚めて、所詮、想い描くことは知れていたらしい。思いつくことがモーターであった。
単なる物の理解である。誤りもなかった。ただ驚く事態しか部屋に持ち運んでいなかった。
 
 小ぶりのテーブルの台座の上で、石膏材と粘土をこね、へらで余分な部分をこそげとる。
形を取る作業までは速かった。そこまでの想起は速かった。傍らに手首まで持つ拳の数個の誂え物が転がっている。
机の上にも数体の腕や掌だけの形をした誂え物が並べられている。石膏は硬い。粘土は軟らかい。

 ヘラを動かす手を止めた。朧な気持ちで思いだす。椅子に座り机の上にぼんやりと見た。
向かった場所に人気はない。辿りついた目の前のその地面の下で音がした。
小石の混ざる砂利土が盛り上がり掘り進み動いていた。咄嗟に辺りを見て小枝を探した。後に思えば普通は怖がるものを・・。

 手のような物が這い出てきた。それは非日常のことである。脳裏を巡る常識は恐怖である。ただ別段に意外とそれ以外のことがあった。
数体の皮膚の禿げた機械の手が強化性の材質と思しき銀色の褪せたアタッシュケースを引き揚げていた。

 全てを包み隠さずに持ち帰った。余すところもなく小石や小枝までも。その時の呆れた気分を。
廃品を持ち帰りがらくたを眺める自嘲に自ら戯ける始末だった。
非日常との遭遇は酩酊を混在させ、半ば愉快なだけの気持ちを起した。日常に混濁した眩暈寸前の無責任で不埒な罪悪は、
むしろ思春期の誘惑に似ても難なく乗り越え、根拠のない昂りだけが先んじる。日常的でない現は夢に近い。取りとめのない期待を夕日の色に添えた。