「あれりゃなんだ?」耕運機を止めて畦道の方へ目を細めた。「気のせいか・・」日差しの中、額に手を当て言った。
振り返るとそこにいた。「河童かな?」それがすぐ目の前にいても、なぜか驚かなかった。素朴に言葉が零(こぼ)れた。子供くらいの大きさで華奢な体つきだった。
 トラクターで引き殺した遭遇もあった。交番の入り口にも立っていた。夜勤で目が霞んでいたのだろうか?霞んで見間違える限度もある。忘れた。
朝のジョギングで、夜の公園で、夕暮れの河畔で目撃された。

 「うぐぅぅぅ」ぶら下げられたジーンズの若者が呻いた。首を絞められて両足を浮かせていた。
「いいから俺がする通りに踊れ!」上下ジャージを着た若者は道端にいる他の人たちに急いて言った。
「見てなこうすりゃいいんだよ」隣の人を手で制して前に進み出た。笑顔で片手を差し出した。
握手すると見せかけ、そのまま髪を掻き揚げた。「な?納得だろ?」ジーンズの若者は肩越しに言った。その時に別の身振りを交えなかった。
僅かに肩を動かした。「あ!?」離れて見ていた誰かが言った。「え!?」視線の端に気配があった。隣にいた大きなグレイがそのジーンズの若者の首元に腕を伸ばし持ち上げた。

 武道でいう出鼻挫きのようなものではないか?と皆が真面目に思った。機先を制するわけであるが、必ずしも上手くいくわけでもなかった。
記号論の専門家に話を求め、運動体育生理学の専門家、物理学、そして言語学の専門家が呼ばれた。
「あいつらあることをしたら、しばらく動きがとまるんだよ」そんな噂が広まった。数瞬、首でも傾げるのか、たじろいで見えたのである。
身振りは形に見える。それは鍵穴のようにある形に反応しているかのように見えた。だから受容体として定規を持ち歩く者が増えた。
「そこで笑顔で近づき、一発喰らわすんだよ」「笑顔で、笑顔で・・」