『季刊 映画宝庫 日本映画が好き!!!』(1979年)所収の小特集『監督へのラブレター&返事』。
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14人の監督への14人のファン(評論家、ライター、記者)からの公開ファンレターと、監督からの返事。
黒澤明監督への「ラブレター」は淀川長治氏。《このあいだ電話をかけたのは何年ぶりだっただろう。
私が黒(くろ)さんに電話したのは、たしか「蜘蛛巣城」を見たすぐあと……〜〜「どん底」には見惚れ「用心棒」
「椿三十郎」にはニヤニヤと楽しんで「天国と地獄」のあとあなたにチラッとどっかで逢った。あのとき二十世紀
フォックスの一番いい映画みたいだったなんて云って。それから「赤ひげ」。〜それから「どですかでん」の伴じゅんの
ところで泣いてしまって、それから「トラ・トラ・トラ」であなたが最高に嫌な思いをして、そして「デルス・ウザーラ」。
それからそのうちに私はもう黒さんだとか(あなた)などと云えなくなった。世界のクロサワになった。当然だよ。
しかし「トラ・トラ・トラ」の発表会のあと私はあなたに(なんだか西洋人みたいになっちまったね)と天下のクロサワへの
賛美を逆手の皮肉をこめたヤジめいた云い方を思わずしてしまったら(なァにいってんだ)と苦笑して私を見た
その親しさも、もうずーッと昔みたいになって。〜〜思わず何年ぶりかで電話がかけたくなった。〜電話をかけると
あなた御本人が出た。〜あなたは(やァ)と……これは私のひとりがてんでもあるまい。とっても懐(なつか)しげ
だった、その一言は。このあと[〜](いったい、映画とる気あんの)と聞いた。〜すると(あるんだよ、三本企画が
あってそのひとつがやれそうなんだよ、来年から)。それから(おれジョン・フォードの二代目になるよ。ジョン・フォードも
死んじまったしね)。〜あなたはちっとも昔と変わらないじゃないの。いいねェ。》 『影武者』(1980)直前の頃か。