俺の先輩が、
『中島美嘉の「雪の華」のサビ“今年、最初の雪のはっ・なをぉ〜”の
“はっ・なをぉ〜”のメロディを半音下げてみろ。
 すると、浜崎の新曲「CAROLS」のサビのど頭、“しっ・ろいぃ〜”のメロディと同じになるんだ。
 つまり、COROLSは雪の華の二番煎じを狙って浜崎サイドが制作した曲なんだ。』
などと主張してきたんだ。俺が、
『そりゃいくら何でも強引すぎませんか?俺は音痴なんで半音下げたら同じになるっていうの自体よく分かりませんけど
 仮に同じだとしても半音下げたらなんてそれはただの偶然でしょ?』と反論すると、先輩は
『いや、そうじゃない。短いタームで世に出た大衆向けポップス同士に類似点があった場合、
 それは99%偶然ではなく必然なんだ。昨年冬のバラードの主役を「雪の華」に奪われた浜崎サイドは
 今年、第二の「雪の華」的バラードでリベンジを狙ってるんだ。』と俺の反論などお構いなしに妄想トークを続けた。
『いいか?雪の華のヒットの最大の要因は美しいサビメロにある。浜崎の制作チームは、雪の華のサビメロを
 細かく分節していった結果、“はっ・なをぉ〜”の部分が大衆の心を掴むために最重要のメロディだと見極めたんだ。
 そしてそのメロディがど頭で始まるサビで構成されるバラードを作り出した。それがCAROLSなんだ。
 発売日を見ろ!雪の華が2003年9月16日でCAROLSが2004年9月29日。9月下旬早々に発売して
 その年の冬の定番バラードのポジション一番乗りを狙うという戦略まで一緒だ。
 いいか?ヒット曲というのはこういうマーケティングの元に量産されるものなんだ。
 浜崎の制作チームは日本で一番マーケティングを重視する所なんだ。だからこれは必然なんだ。』
俺は先輩のあまりの剣幕に圧倒され、『は、はぁ…勉強になりました。』とだけ答え、やり過ごそうとした。
しかし先輩は益々興奮の度合いを強めながらまだ続けようとする。
『ただな、俺はそうやって他人の見つけ出したアイディアを借用して継ぎ接ぎしていながら
 自分達こそが日本のスタンダードだ、みたいな傲慢な態度を変えようとしない奴らにむかっ腹が立って仕方ないんだ』と
鼻息を荒げながら主張を続ける姿を見ながら俺は、『あぁ、やばいなこいつ』と思い、
その日から先輩から距離を置くことに決めた。