(続き)

さすがにビックリした。……僕何かやりましたか?
雷が落ちた。
「君が指示を出すんだ!」
はぁ。
「周りのスタッフに頼らないで、君がすべての指示を出せ。でなければ打ち合わせはやらせない!」
そうかぁー。

師匠に言われたのではたまらない、このままでは仕事を取り上げられてしまう。
「解りました、やります」


再び原画マンが招集され、僕はおっかなびっくりで指示を出した。
こういう時、学生時の指揮者の経験が役立った。何か良く解らないけどなんとなく指示を出してその場を凌ぐという技術は会得していたのだ。
しかし、冷や汗をかいた。


「妥協をするな、我を貫け」
師匠がもうひとつ、僕に繰り返し伝えたことだ。
良く言い訳で言うことだが、今の悪名高いヤマカン像は何も僕の一方的な我儘でこうなった訳ではない。
師の教えだったのだ。

お蔭で僕は憎まれアニメ監督の代表格となってしまったが、師の教えに背いていたら、今頃どうなってただろう?
無名の演出で終わっているか、あるいは演出を諦めたかも知れない。
師の「英才教育」は僕の骨の髄まで染み込み、血肉となって今の僕を形成している。

今もことあるごとに、師匠の声が聞こえる。
「君はそんなことをするために、ここに入ったのかい?」
いえ、違います。決して違います。
死ぬまで僕は、師の教えに忠実に生きるだろう。