【モスクワ=黒川信雄】北方領土のビザなし交流の一環として実施されている日本語講師派遣事業で、国後島を訪問した日本人講師らが税関で教材を没収され、授業を行えないまま同島を離れざるを得ない可能性が出ている。

 北方領土をめぐっては27日には共同経済活動に向けた調査団が日本から派遣されるが、露側の対応は日本に冷や水を浴びせかねない。

 国後島を訪れたのは日本人講師や通訳など計4人。15日に同島に入ったが、授業で使用する教材を「重量オーバー」との理由で税関に没収された。

 没収はロシアが北方領土において、裁判などを行う権利である「管轄権」を有することを前提とした行為で、日本側は「受け入れられない」(外交筋)との立場だ。

 事業を運営する北方領土問題対策協会によると、同事業で教材が没収された例は過去になかったといい、露側が北方領土の実効支配誇示を狙っている可能性もある。

 イタル・タス通信によると北方四島を事実上管轄するサハリン州高官は23日、没収は法律に沿って行われたと発言するなど、露側は態度を硬化させている。

 同協会によると、4人は23日時点で国後島に留まっているが、教材は没収されたままで、「この状況が続けば島から戻ることも検討しなくてはならない」としている。露メディアは4人が26日にも島を離れる可能性があると報じた。

 日本語講師派遣事業は1998年から実施。今年の国後島での授業は7月下旬まで行われる予定で、島の住民約50人が参加を希望していた。教材は参加者に寄贈される予定だったという。

 授業は8月以降、択捉島、色丹島でも計画されているが、実施を危ぶむ声も出ている。

 【用語解説】ビザなし交流 北方四島のロシア人島民と日本人の元島民らが旅券や査証(ビザ)を持たずに相互を行き来する事業で、1992年に開始された。その枠組みで人道や医療、教育分野などの専門家を派遣する事業も行われ、日本語講師派遣はそのひとつ。日本や日本文化へのロシア人島民の理解を深めるのが目的。

http://www.sankei.com/world/news/170623/wor1706230047-n1.html
http://www.sankei.com/world/news/170623/wor1706230047-n2.html