一橋大学(東京都国立市)の大学祭「KODAIRA祭」で予定されていた作家の百田尚樹氏(61)の講演会が中止された問題で、実行委員会の男子学生(20)が産経新聞の取材に応じた。
言論の自由を重視し、反対派とも話し合いを重ねて開催の道を探ったが「何かあった場合に責任をとれるのかと迫られ、何も言えなくなった。
講演を聞いてみたい個人の思いは、大学祭成功のため封印した」と胸中を語った。

男子学生は百田氏の講演会発案者の一人だった。
大学祭は今月10、11日開催し、講演会は10日に行われる予定だった。

中止に至るまでの騒動と、今も波紋が広がり続けていることについて「これほどの騒ぎになるとは思っていなかった。だんだん怖くなった」と話す。
百田氏に対しては、「講演依頼を受けていただいたにもかかわらず、主催者側の都合で大変失礼なことをしてしまった。おわびしたい」と述べ、今後、直接会って説明をするため予定を調整しているという。

男子学生によると、実行委員会の中で百田氏の講演会企画が具体化したのは昨年12月ごろ。
百田氏には「現代社会におけるマスコミのあり方」と「現代の日本の若者をどう見るか」、「作家としての半生」という演題案を提示、最終的にマスコミについて語ってもらうことが決まった。

当初から百田氏の思想信条を語ってもらう予定はなかったとしたうえで、男子学生は「演題から外れた発言は慎むようお願いしていた。
誰かを傷つける内容で盛り上げようなど思ってもいなかった」と強調する。

舌鋒(ぜっぽう)鋭い百田氏の社会的なイメージについても、「マスコミを通して過度に誇張され、独り歩きしている部分があるのではないかと感じた。
講演会を通して、自分の見たもの聞いたものをもとに人物像を判断することが一橋大生ならできると思った」と語り、質疑応答の時間も予定した。

副学長をトップとする学内組織に企画を説明、承認されたが、時期を同じくして反対意見が寄せられるようになった。
反対の動きは、主に3つの方向から起きたという。
一橋大の大学院に在籍する学生が代表を務める、研究者やNGOらでつくる団体「反レイシズム情報センター(ARIC)」は、百田氏が在日外国人に対して差別的な発言を繰り返してきたとして、差別は許さないとする署名約1万人分提出。

大学院生が中心の「講演会中止を求める一橋生有志の会」は開催反対の署名とともに、反差別規定をつくるべきだと求めた。
教員からも反対の声は上がり、実行委には「一橋大の品格をおとしめる」「中止しろ」などのメールが届くようになったという。

さまざまな形で中止を求める声が寄せられても、「表現の自由は民主主義の根幹だという信念を持っていた。中止は考えていなかった」と男子学生。
開催の道を探るべく反対派との折衝にあたり、警備体制強化の検討を重ねていたが、心は疲弊していった。

5月下旬、ARICと2回にわたり話し合いを実施。
外国籍の学生を伴って臨んだARICのメンバーは、席上で「講演開催の事実や内容にショックを受け、自殺する人が出たら賠償責任を取れるのか」「講演をきっかけにヘイトクライムが起きて負傷者が出たらどうする」などと詰め寄った。
「責任を追及されると、もう何も言えなくなってしまった」

実行委は今月2日に中止を発表した。圧力に屈したのかという問いには、男子学生は「中止は学生自治で決めたこと。
何を圧力というのかとらえ方次第」とし、「言論の自由を軽視したわけではない。
実行委として、安全にKODAIRA祭を実施する務めを果たすことを優先した。
決断は正しかったと信じている」と話した

http://www.sankei.com/smp/premium/news/170627/prm1706270001-s1.html
http://www.sankei.com/smp/premium/news/170627/prm1706270001-s2.html