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 だが今回、コンテナ内で見つかったヒアリのコロニーには卵や幼虫も含まれていたが、すべて駆除されている。ヤードで見つかった約100匹に、女王アリや幼虫はいなかった。

 国立環境研究所生物・生態系環境研究センターの五箇公一(ごか・こういち)室長は「ラッキーなことに侵入初期の段階で見つけられた」と評価。

 一方で「危機一髪で封じ込められたと思うが、一部が逃げ出した可能性は否定できない」とも指摘し、今年度内はヤード周辺の緑地や植え込みで調査を続けるよう神戸市と環境省に助言したという。

園庭遊びは中止に

 ヒアリが発見されたヤードはふだん港湾関係者以外の立ち入りが禁止され、住宅地や商業地からは離れている。しかし、島内の住民らの不安は払拭できていない。

 発見場所から1・5キロ近く離れた市立港島幼稚園では、園内にヒアリの写真を掲示。砂場をしばらく使用禁止にし、園児を園庭ではだしで遊ばせない対策をとった。

 認定こども園ポートピアでも、園児が植え込みに近づかないようロープを張り、はだしにならないようにスタッフらと注意して見守っている。

 同園の女性園長(60)は「安全確保のために対策を取るのは仕方がないが、いつまではだしを禁じたらいいのか、いつ好きなように虫を捕まえてもいいといえるのかという判断に困るのも事実。園庭遊びは幼児教育には非常に重要なため、長く制限することだけは避けたい」と複雑な胸中を明かした。

 一方、ポートアイランドに近いホームセンターではアリの駆除関連商品が例年の3倍の売り上げとなり、港湾業者からの注文が相次いでいるという。

毒グモの悪夢再び?

 ヒアリのように毒を持った外来生物が国内に定着した例として思い起こされるのが、オーストラリア原産の毒グモ「セアカゴケグモ」だ。国内では平成7(1995)年、海外から運ばれてきたコンテナに付着してきたとみられる個体が大阪府高石市の臨海部で初めて確認された。

 その後、すでに各地で大量に生息していたことが判明し、27年9月までに41都道府県で確認、一部では定着している。

 毒こそないもののヒアリと同様に南米原産の特定外来生物「アルゼンチンアリ」も、5年に広島県で初めて発見された後、12都府県で定着し、生態系への影響が懸念されている。

 ヒアリの調査の過程では6月20日、同じ毒アリで北米南部・中米原産の「アカカミアリ」約100匹も、ヤードのヒアリ発見場所から約120メートル東側で見つかった。ヒアリに比べれば毒性は低いとされるが、刺されれば同様にアナフィラキシーショックを起こす可能性がある。

 国内ではすでに沖縄県の米軍基地周辺や硫黄島(東京都)で定着しているほか、貨物船のコンテナから見つかった例はあるが、屋外で見つかったのは離島以外では初めてだった。

 それからわずか3日後の23日、フィリピン・マニラから大阪市住之江区の南港に到着したコンテナ内からアカカミアリ3匹を発見。26日には南港のコンテナ保管場所でも2匹が見つかるなど捕獲が続いている。

 一方、愛知県は30日、名古屋港の鍋田ふ頭コンテナターミナル(愛知県弥富市)で27日にヒアリが見つかったと発表した。コンテナ外壁に7匹がいたという。コンテナは中国・広州の南沙港から到着した貨物船に載っていた。

「社会全体として駆除を進める対策を」

 ヒアリもアカカミアリもすでに国内に侵入、拡散している恐れはないか。

 国土交通省は全国125の重要港湾を管理する自治体に緊急点検を要請し、ヒアリは確認されなかったとしたが、目視での点検を行ったのは、ヒアリが見つかったコンテナが出港した5月15日以降に南沙港から運び出された貨物の取り扱いがあった12港湾だけだ。

 村上准教授は「貿易自由化で輸入品が増えている今、外来生物の侵入を水際で完全に食い止めるのは現実的に無理だろう」と指摘した上で、こう提言する。

 「港湾関係者だけでなく、一般市民にも人命にかかわるような外来生物の知識を普及し、社会全体として駆除を進めるような対策が必要ではないか」

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神戸港のコンテナヤードで見つかったヒアリ(環境省提供)
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特定外来生物に指定されているアカカミアリも見つかった

(おわり)