ヨーロッパにおけるドイツ

ドイツ人は「Wir Europaer(われわれヨーロッパ人は)」という一人称を
よく使う。統計を取ったわけではないが、フランス人やイギリス人よりも
頻度がかなり多いと思う。(イギリスにとってのヨーロッパとは、日本に
とってのアジアである。)これはとりわけ第二次世界大戦後のドイツ人
が、ヨーロッパ人を自称したがるからなのだが、何故そういう傾向が生
まれたかという話をするためには、ドイツのヨーロッパにおける立ち位
置について話す必要がある。

以前も話したように、歴史的に、礼儀を重視し文化的なイギリス人やフ
ランス人に比べ、ドイツ人(プロイセン人)は無骨で無作法という評判を
長らく享受してきた。これはドイツの哲学や芸術が花開いたあとも変わ
らず、ナポレオンがゲーテを愛読する時代になっても、社交界における
優雅な振る舞いを重視するイギリスやフランスからは文化的に洗練され
ていない民族として一段下に見られていた。

しかし近世以降、ドイツには優れた文化がある。カントもゲーテもベー
トーヴェンもドイツ人である。ドイツ人は自国の文化を誇りに思いながら
も、他国からの評判に不満を抱き続けており、これが爆発したのがナチ
ス・ドイツのアーリア人礼賛なのである。ドイツ人がこういう人種差別的
な考え方に走ったのは、ドイツの特殊な立ち位置に起因しているのであ
る。

しかし、この偉大なドイツ人が世界を支配するという考え方は第二次世
界大戦の敗戦で砕け散り、結局イギリスやフランスに散々に非難される
ことになる。結果として、ドイツ人の希望も虚しく、ドイツ人はやはりとん
でもない民族だという見方がヨーロッパ全体に広がってしまった。今やド
イツ人は、ドイツ人であることを誇りに思うことができない。ではどうする
か? ヨーロッパ人を名乗るのである。

ヨーロッパの盟主としてのドイツ

ドイツの歴史は酷かったかもしれないが、ヨーロッパの歴史は偉大であ
る。その偉大なヨーロッパを率いているのがドイツであればどうだろう
か? その非常に栄誉ある立ち位置はドイツ人の悲願である。かくして
ドイツはヨーロッパ統一という考えに取り憑かれた。通貨を統一し、国境
を取っ払った。安いユーロで輸出も上手く行き、ギリシャ問題も何とか押
さえ込んだ。すべてが上手く行くはずである。そう思っているのは、残念
ながらドイツ人だけなのである。