韓国の最低賃金委員会は、2018年の最低賃金を「ご聖断」(文在寅=ムン・ジェイン=大統領の選挙公約)に沿って、現行より16・4%引き上げることを正式に決定した。時給7530ウォン(約750円)、月給(209時間労働)157万3770ウォン(約15万6700円)になる。

 これを受けて政府は直ちに零細企業に3兆ウォン(約2990億円)規模の支援金を出すことを決めた。

 民間企業の賃金を政府資金で補填(ほてん)するとは最たるポピュリズムだが、最低賃金の大幅アップはさまざまな部門に波及する。中小企業団体は「賃上げ分だけ減員せざるを得ない」と息巻いているが、すぐに一般勤労者の大幅賃上げが続く。

 そして実際に行われるのは減員よりも、製品価格の引き上げの方だ。“文在寅・社会主義政権”は大インフレ時代に足を踏み入れたと言えよう。

 日本の最低賃金は都道府県により異なる。東京のコンビニこそ「時給1000円時代」と言われるが、東北や九州には時給710円台の県がたくさんある。

 これに対して、韓国の最低賃金は全国一律だ。もっとも、「飲食業で働く青年層10人に4人は最低賃金も受け取れずにいる」(ハンギョレ新聞2016年6月6日)という実態がある。

 それでも「中堅」とされる規模以上の企業は、最低賃金を守らざるを得ない。なにしろ「法定」事項なのだから。それは失業手当や産休手当の支払い基準に直結する。

 そして、最大の影響は、一般人件費の大幅引き上げだ。

 例えば、国家公務員の最低職位である9級職の1号俸は現在139万5880ウォン(約13万8980円)で、18年最低賃金を大幅に下回る。公務員は「最低賃金制度の適用除外職種」になっているが、現実の問題として、大幅引き上げは避けられない。

 9級職1号俸が大幅アップすれば、8級職〜1級職も連動する。民間企業も同じことだ。

 韓国政府は今回の最低賃金アップによる、民間の人件費増は年間13兆ウォン(約1兆2940億円)程度としているが、これは最低賃金適用者に限った数字のようだ。

 韓国企業では、非正規職従業員はもとより、正規職の社員でも、簡単に解雇できる。「強力労組が許すはずはない」との意見も出ようが、韓国の労組組織率は、実は10%弱だ。

 だから中小企業経営者は「賃上げ分だけ減員」と簡単に語るのだが、実際の問題として従業員8人のコンビニで1人減員したら、もうパニックだ。残業手当の増額分の方が、解雇したアルバイトの賃金より多いということになろう。

 現実的な方途は、メーカーの出庫価格、運送費、小売価格…みんな上げることしかないだろう。結果としてウォン安になり、輸出競争力が高まるかもしれない。

 与党系のハンギョレ新聞(17年7月17日)は「仕事帰りにキムチチゲが食べられる バイト労働者にようやく笑顔」と、はしゃいだ紙面をつくっているが、ほどなく「あれ、キムチチゲが大幅値上げ」の記事を載せることになるだろう。

 ■室谷克実(むろたに・かつみ)1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。主な著書に「韓国人の経済学」(ダイヤモンド社)、「悪韓論」(新潮新書)、「呆韓論」(産経新聞出版)、「ディス・イズ・コリア」(同)などがある。

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文大統領は、韓国を大インフレ時代に引き込むのか(AP)