米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に対する中国による経済報復の長期化に、韓国・中国両政府の顔色をうかがってきた韓国経済界も怒りの声を上げ始めた。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談でも解決の糸口をつかめなかったことが大きい。経済界は「国際舞台で自由貿易を守ると訴える習氏が稚拙なTHAAD報復をやめないのは矛盾だ」などと批判しているが、結局は、中国の大国としての振る舞いに期待するしかないのが実情のようだ。

首脳会談に成果なし

 韓国の聯合ニュース(日本語電子版)によると、ドイツで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて7月6日に行われた韓中首脳会談で、文大統領が「さまざまな制約により両国間の経済・文化・人的交流が萎縮している」と、THAADの韓国配備を受けた報復措置の是正を求めた。

 これに対し、習氏はTHAAD配備に反対するという従来の立場を繰り返した。報復の是正については「中国国民の関心と懸念を考慮しないわけにはいかない」とし、「両国間の交流と協力が正常化し、さらに高いレベルで拡大することを希望する」と述べるにとどめたという。

 朴槿恵(パク・クネ)前政権はTHAAD配備を決断して中国との関係を悪化させたが、新政権発足で回復の兆しがありうると期待されていただけに韓国経済界の落胆は激しく、ある経済団体関係者は「中国は米国と並ぶ大国に成長したが、それに見合った行動を取っていない」と批判し、「この状況が続けば中国に進出した企業がベトナムなど第3国に移転することになる」と指摘した。

 ある財界関係者は「財界は中国政府に一段と強く抗議し、韓国政府も世界貿易機関(WTO)への提訴などを含め積極的に対応すべきだ」と訴えた。

企業被害の深刻化

 韓国経済界は中国の態度を見守ろうとする慎重な立場をとってきた。ハンギョレ新聞(同)によると、大韓商工会議所や貿易協会などは、2月にロッテや化粧品・旅行業界を中心に被害が本格化した後も、被害企業の申告の受け付けと支援に乗り出しただけで、THAAD報復に抗議することはなかった。

 安全保障の問題のため企業の利益だけを主張しにくい面はあったが、韓国経済界には「声を高めてかえって中国を刺激して、さらに被害を受けることが予想される」「韓国と中国との合作企業に被害が及べば、自分たちも損害を被るのでむやみにできないだろう」などとする慎重派が優勢だったからだ。

 ところが、報復が4カ月以上続き、積極対応を求める声が高まっている。ここにきて怒りや失望の声があらわになっているのは、それだけTHAAD報復による企業被害が耐えられないレベルに達していることを浮き彫りにしているといえる。

 ハンギョレ新聞(同)によると、THAAD報復による韓国企業の被害は今年上半期だけで数兆ウォン(数千億円)にふくらんでいるという。ロッテは中国国内の営業店に対する当局の消防点検と営業停止措置で5千億ウォン(約500億円)の被害があり、現代・起亜自動車は上半期に5兆ウォンの売上高が失われたといわれる。

 聯合ニュース(同)によると、現代・起亜自グループは6月に中国で現代自が約3万5千台、起亜自で1万7千台を販売したが、それぞれ前年同期の64%減と62%減となった。両社合わせて今年末までに中国市場での販売目標は195万台と設定してきたが、その6割以上を失う可能性もあるとされる。

 これで世界販売も目標の825万台を大きく下回る700万台前後にとどまるとの見通しもでている。

http://www.sankei.com/west/news/170720/wst1707200001-n1.html
http://www.sankei.com/west/news/170720/wst1707200001-n2.html
http://www.sankei.com/west/news/170720/wst1707200001-n3.html
http://www.sankei.com/west/news/170720/wst1707200001-n4.html

>>2以降に続く)

http://www.sankei.com/images/news/170720/wst1707200001-p1.jpg
7月6日、ドイツでの首脳会談で握手する中国の習近平国家主席(右)と韓国の文在寅大統領。文氏の報復是正の求めは習氏にかわされた(聯合=共同)