(『朝鮮民族を読み解く』吉田博司  ちくま新書)

朝鮮の民間芸能とはどのようなものか、筆者のところで韓国の仮面劇の研究をしている学生の小竹正之君の訳で、
韓国安東(アンドン)の河回ムラに伝わるタルロリ(仮面劇)の一節を次に紹介しよう。

若い寡婦であるプネが、物陰で小便するところからこの一幕(マダン)は始まる。小便をしているところを僧侶が目撃し、
プネの去った後、僧侶は地面に顔を寄せ、土を手に取りその匂いを嗅ぎだすのである。匂いを嗅いだ僧侶は次のような台詞を言う。
「ウフフフフ、アイグー、匂いだ。アイゴー、濡れておるわ。」欲情した彼は経文を唱えながらプネに近付いて行き、ついに笠を脱ぎ捨て、
破戒してしまう。そして、次のような数え歌でプネを誘うのである。

一(イル)に 一枷山(イルカサン)で年老いた坊主が
二(イー)に 二枷山(イーカサン)に向かう道
三(サム)に 三路(サムロ)の路上で
四(サー)に 士大(サーデ)婦女(おくさん)に逢って
五(オー)に おしっこ(オジュム)の匂い嗅ぎ
六(ユク)に 欲情(ヨクチョン)が込み上げ
七(チル)に 七宝(チルポ)の飾りはしていなくとも
八(パル)に 御縁(パルチャ)があろうがなかろうが
九(クー)に 区別(クビョル)などなさらずに
十(シプ)に おまんこ(シプ)させて下さいな

嗚呼、なんと下品なのだろうか。筆者などワクワクするのだが、これが大韓民国国宝第一二一号に指定される
河回ムラの仮面によって舞われる仮面劇なのである。ゆえに、私は若き研究者である小竹君に言うのである。
世界に比類のない「下品さ」を有する韓国の民間芸能が、なぜ下品なのか、それを解くことが君の研究者としての使命であると。