>>1の続き)

両方の国でぞれぞれ「自国民」として滞在する(暮らす)ということだ。

なお、アメリカに暮らす移民にとって自国のパスポートは国籍と身分を証明する重要な公式書類だが、市民権を取得した者にとってアメリカのパスポートを取得することは「アメリカ人になった」という象徴的な意味でも非常に重要となる。

市民権取得による二重国籍

日本で生まれ育った日本人も、アメリカ人(アメリカ国籍)になれる。米国市民権を取得(いわゆる帰化)すればよいのだ。市民権取得は難しくもあり、容易いとも言える。

日本在住の日本人がいきなり市民権を取得することはできない。アメリカの移民法は非常に複雑かつケース・バイ・ケースなことも多いが、成人の場合、一般的にはなんらかの就労ビザを取ってアメリカで働くと、やがて永住権(通称グリーンカード)を申請し、取得できる。

または米国市民との結婚によってもグリーンカードは取得できる。日本人には少ない方法だが、親族の一人が米国に定住し、所得も安定すると、母国の親族を呼び寄せることもできる。

永住権とは、元の国籍のままアメリカに永住できる資格を指す。ただしアメリカで就労や結婚しても一定の条件が揃わずに申請ができない、または申請が却下されることもあり、グリーンカード取得は容易ではない。

いったんグリーンカードを取得すると、結婚の場合は3年後に、それ以外の場合は5年後に市民権取得の申請が可能になる。市民権取得にも一定の条件はあるが、グリーンカード取得に比べると難易度は低い。つまり市民権申請までの道のりは長いが、グリーンカードさえ手に入れられれば取得自体はそれほど困難ではないと言える。

永住権と市民権の違いは、日常生活においてはほとんどない。ただし法的な立場はまったく異なる。永住権は先にも書いたように国籍は元の国のまま、あくまで「外国人」としてアメリカに永住する資格であり、選挙権は無い。

一方、市民権を取得すると名実共に「アメリカ人」となる。アメリカは移民の国だけあり、市民権取得者を完全にアメリカ人として迎え入れる。どの職業にもまったく問題なく就くことができ、過去には国務長官、現在も省庁の長官、下院議員に元移民の市民権取得者がいる。

もっとも、それほどの地位に就くためには成人してからの移住では難しく、子供の頃に移住し、アメリカで基礎?中等教育から受けている者がほとんどだ。なお、アメリカで生まれ、生まれつきの米国籍者しか就けないと憲法で定められた地位が大統領と副大統領だ。

よく知られるエピソードとして、「オーストリア生まれの俳優、アーノルド・シュワルツネッガーはカリフォルニア州知事となったが、大統領にはなれない」がある。

日本人がアメリカ国籍を取らないワケ

アメリカ市民権を取得してアメリカ国籍となっても、祖国が二重国籍を認めている場合は祖国籍も維持できる。よほどの事情がない限り祖国籍を捨てる理由はなく、したがってアメリカには大量の二重国籍者が存在する。また、国籍放棄を認めない国もあり、この場合は本人の意思にかかわらず二重国籍となる。

先に書いたようにアメリカ政府は個々の市民権取得者の祖国籍の維持/放棄を追っておらず、二重国籍者の実数は不明だ。2015年には全米で73万人が市民権を取得しており、二重国籍者も相当数存在すると推測される。アメリカが「多人種・多民族」国家である理由だ。

ちなみに73万人のうち日本人は1,858人、全体のわずか0.25%となっている。同じ年、中国人は3.1万人、韓国人は1.4万人が市民権を取得している。

日本人の米国籍取得者が少ないことには理由がある。日本に限らず、政情と経済が安定した国からの移住者は米国籍を取らない傾向にある。仮に何らかの理由で祖国に戻らければならない事態になっても祖国で命を脅かされたり、飢餓に陥ったりする心配がないからだ。

逆にアメリカで事変が起これば祖国に戻って平安に暮らせる。また、豊かな国からは親族揃っての移住者が少なく、特に日本人の場合は日本に暮らす親の老後の世話のための長期帰国や永久帰国もあり得る。他方、祖国が極度に貧しい、または政情不安な場合、移民は祖国に戻りたがらない。

そのため外国籍のままの永住権でも安心できず、何があってもアメリカを追い出されることのない市民権を取得する。

加えて日本人の場合は日本政府が二重国籍を認めないため、米国籍取得は「日本国籍の放棄」につながる。人は多かれ少なかれ、生まれ育った国の籍を捨てることに抵抗を感じるものだ。

(続く)