国連の「強力な制裁」で、北朝鮮は核武装を諦めるのか。

口だけの中国に失望

国連安保理が「強力」とされる対北朝鮮決議を採択しました。

鈴置:8月5日、北朝鮮への制裁強化の決議を全会一致で採択しました。石炭、鉄・鉄鉱石、鉛、海産物の輸出を全面的に禁止しました。

 北朝鮮の外貨獲得手段にタガをはめることで、核・ミサイル開発の資金源を断つ狙いです。海外での北朝鮮労働者の新規受け入れや北朝鮮の企業との新たな合弁・共同事業の禁止も盛り込みました。

中国やロシアは制裁強化に慎重でした。今回はなぜ賛成に回ったのですか?

鈴置:7月4日と28日の北朝鮮の2回のICBM(大陸間弾道弾)試射の後、米国が戦争も辞さないとの強い姿勢を見せるようになったからです。

 トランプ(Donald Trump)大統領は7月29日、ICBMの試射についてツイッターを連投しました。初めのと、次のつぶやきのポイントを訳します。

・中国にはとても失望した。
・彼ら(中国)は北朝鮮に関し我々に何もしてくれない。口だけだ。このままじゃおかないぞ。中国はこの問題を簡単に片づけられるのに!

死ぬのは向こう側

 米国のヘイリー(Nikki Haley)国連大使も7月30日「対話の時間は終わった」と語りました。CNNが「‘Time for Talk is Over’: US grapples for new approach on North Korea」で報じています。

 「対話が終わった」と言うことで「戦争の覚悟」をちらつかせたのです。その変化を中国も見てとりました。王毅外相は8月6日「(朝鮮半島情勢は)危機の臨界点に迫っている」と語りました。

 中ロを動かす決定打となったのが、トランプ大統領の「戦争をやっても米国側に死者は出ない」との発言と思われます。

 大統領が自身に面と向かって語った言葉として8月2日、共和党のグラハム(Lindsey Graham)上院議員が以下のように述べました。NBCの「Sen. Lindsey Graham: Trump Says War With North Korea an Option」から引用します。

If there’s going to be a war to stop [Kim Jong Un], it will be over there. If thousands die, they’re going to die over there. They’re not going to die here.

 正確に訳せば「もし(金正恩=キム・ジョンウンを)止めるための戦争になっても、それは向こうで起こる。数千人が死んだとしても、死ぬのは向こう側だ。こちら側では死なない」。

中国の銀行にも制裁を

はっきりと言ったものですね。

鈴置:でも、この発言が――「戦争を怖がってはいないぞ」と言い切ったことが、国連制裁への中国やロシアの賛成を引き出したと思われます。

 それまで、中国の外交関係者からは「トランプは口だけ。戦争に踏み切る勇気はない」と米国を甘く見る発言が聞こえていました。

 「死ぬのはお前だ」発言は一義的には北朝鮮向けですが、同時に中国向けの脅しでもありました。

 米国の議会やメディアも一気に強硬論に傾きました。共和党のガードナー(Cory Gardner)上院議員もCNNに寄稿した「Senator: How to really turn the screws on North Korea」(8月2日)で「言葉の時は終わった」(The time for words is over )と言い切っています。

 さらに「北朝鮮と取引する中国の金融機関などにも制裁を科すべきだ」とトランプ政権に要求しました。米国で盛り上がる「中国への制裁論」も、中国を対北制裁決議への賛成に向かわせたと思います。

 ガードナー議員は上院外交委員会・アジア太平洋小委員会の委員長を務める大物です。朝鮮半島問題にも詳しく、5月に訪韓しました。

 その際、韓国の国防長官に対し、THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を見直すなら米韓同盟を打ち切るぞと脅しました。

対話を呼びかけた国務長官

同じ頃「米国務長官が北朝鮮に対話を呼びかけた」との報道もありましたが。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/080800117/

>>2以降に続く)