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「アメリカ市民を守るためには仕方がない!」

 かねてより北朝鮮に対する先制攻撃を研究してきた米軍関係者の多くは、金正恩政権首脳たちを一斉に葬り去る作戦、北朝鮮の核ミサイル関連施設を短時間のうちに壊滅させる作戦、

 または両作戦を同時に実施する大規模作戦など、米軍による先制攻撃によって引き起こされる北朝鮮軍の反撃によって、米軍と韓国軍だけでなくソウル周辺の一般市民(外国人も含む)にも甚大な損害が生ずることをシミュレートしている。

 そのような犠牲に加えて、かなりの高い確率で、米軍の策源地である日本に対して多数の弾道ミサイルが撃ち込まれることも予想されている。その場合には、当然のことながら、日本国民の間にも多数の死傷者が出ることが不可避と考えられる。

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北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルの射程圏
アメリカによる北朝鮮に対する先制奇襲攻撃が開始されてから30分から1時間程度で北朝鮮軍の弾道ミサイル部隊が全滅できなかった場合には、日本にもスカッドER弾道ミサイルやノドン弾道ミサイルが撃ち込まれ、少なからぬ数のミサイル弾頭が着弾することとなる。

 このように米軍の先制攻撃によって韓国や日本の一般市民、すなわち無辜の非戦闘員が被る損害の甚大さに鑑みると、これまでは米政権が北朝鮮に対する軍事攻撃に踏み切ることは至難の意思決定であると考えられてきた。

 しかしながら、北朝鮮がアメリカ本土を射程に収めた核弾頭搭載ICBMをほぼ確実に手にしてしまった現在、そうした想定は通用しない。

 「軍事力を行使してでも北朝鮮の核ミサイル開発能力、ならびに金正恩政権を葬り去らないと、これまでのシミュレーションの比ではない計り知れない犠牲を被りかねない。何といっても、その犠牲はアメリカ本土で生活する一般のアメリカ国民にも及ぶのだ」といった論理が浮上し、まかり通ることは十二分に推察できる。

安倍政権は覚悟を決めるとき

 かつて太平洋戦争の終盤において、米海軍首脳などは、無数の非戦闘員まで殺戮してしまう原爆の使用に異議を唱えていた。それにもかかわらず、「原爆攻撃により、数十万の米軍側の損害を避けることができる」という正当化理由を振りかざして、二度にわたり原爆攻撃を実施したアメリカである。

 「今この時点で北朝鮮の核ミサイル開発施設を壊滅させ、金正恩一派を葬り去らないと、100万人以上のアメリカ市民が犠牲になりかねない」といった正当化理由によってマクマスター補佐官が明言した「予防戦争」が発動される日は、国連安保理決議2371号が発動されたために近づいたのかもしれない。

 もちろん、トランプ政権が北朝鮮に対する先制攻撃の最終決断をするに当たって、多数の人的物的犠牲を覚悟しなければならない日本に対して、そして軍事同盟国である日本に対して、先制攻撃の容認、そして協働要請を打診してくるのは当然である。

 安倍政権は、日本国民の大きな犠牲を覚悟の上でアメリカによる「予防戦争」に賛同するのか、それとも日本国民の生命財産を保護するために「予防戦争」に断固反対して他の手段を提案するのか、腹を決めておかねばならない時期に突入したのだ。

北村 淳
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。
専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。米シンクタンクで海軍アドバイザーなどを務める。現在安全保障戦略コンサルタントとしてシアトル在住。

(おわり)