8日夜に地震が起きた中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州九寨溝(きゅうさいこう)県周辺では、地元当局がメディアを徹底排除していた。世界自然遺産に登録されたエリアの景観が深刻なダメージを受け、今後の地元経済に甚大な影響を及ぼしかねないためとみられる。(九寨溝 西見由章)

 「ここから先は通行証がないと通れない。引き返せ」。地震発生5日目の12日、九寨溝県政府がある市街地から被害が大きい風景名勝区に向かう幹線道路のトンネルの前で、警察による検問が行われていた。

 風景区から40キロ近く離れた市街地では、倒壊などの被害を受けた建物はほとんどみられない。「2008年の地震(四川大地震)以降、建築基準が厳しくなったため被害の拡大が抑えられた」(地元の住民男性)との指摘もある。

 県政府の建物などが集まる官公庁通り付近では、避難者用のテントなどが点在していた。観光シーズンを迎えて本来にぎわいを見せているはずの町は人通りも少なく、静まり返っていた。

 風景区の内部を取材した地元記者によると、道路がいたるところで寸断され、安全を理由に11日から取材できなくなった。

 地震による決壊で湖の水が流出した「火花海」のほか、九寨溝で2番目に大きな滝「諾日朗瀑布」も崩壊し、水が流れなくなった。風景区でも最も美しい湖の一つとされる「五火海」の美しい透き通った湖水も泥で濁っていた。

 風景区に向かうため県政府の外事弁公室に通行証発行を求めると「地元の一部メディアを除き昨日から全記者に県外に出るよう要求している」と拒否された。「安全」を理由に党中央宣伝部からそうした措置をとるよう指示されたという。

 先の中国人記者は「地元経済は九寨溝の観光に依存しており、被害のイメージが広がることを懸念している」と分析。「いまだ当局は景観が回復できるかどうか判断できておらず、どう発表していいかわからないのだろう」と話した。

 被災地では観光業に従事するチベット族の住民も多いなど政治的に敏感な少数民族の問題も背景にあるようだ。

 地元当局によると、12日までに地震による死者は24人に上り、6人が行方不明になっている。

http://www.sankei.com/world/news/170812/wor1708120051-n1.html
http://www.sankei.com/world/news/170812/wor1708120051-n2.html

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12日、中国四川省九寨溝県で、地震被害が大きかった景勝地への立ち入りを制限する警官ら(西見由章撮影)
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12日、中国四川省九寨溝県に設置された被災者向けテント。すでに避難者はいなかった(西見由章撮影)
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寺院の隣で崩壊した建物のがれきのそばを歩く人=10日、中国・四川省九寨溝(ロイター)
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震源地の南方の村で、伝統のチベット服を着て村を歩く女性=11日、中国・四川省九寨溝(ロイター)
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中国共産党のスローガンの前を歩くチベットの伝統服を着た女性=11日、中国・四川省九寨溝(ロイター)
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震源地の南方にある村で、風に揺れる木の根元の花=11日、中国・四川省九寨溝(ロイター)