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 廖氏は「霞さんは本当に喜んでいた。劉氏は自らの信念のために妻を犠牲にできないと思ったのだろう」とおもんばかる。

 4月に廖氏は、霞さんから一連の経緯を書いた直筆の手紙を受け取り、ドイツ政府の支援を取り付け中国との交渉が始まった。だが劉氏の末期がんという急転直下の事態が起きた。

 6月上旬、廖氏が霞さんに電話すると、受話器から「張り詰めた」声が聞こえた。当局から霞さんに緊急連絡があり、劉氏が重病と知らされたばかりだった。

 直後に霞さんは瀋陽へ向かい、廖氏は今に至るまで連絡が取れない。「霞さんを探し出し、国外で治療を受けさせ、平穏な生活を過ごしてもらう」。そう廖氏は語った。【北京・河津啓介】

 ◇党大会控え体制強化

 中国では習近平指導部の2期目の顔ぶれが決まる共産党大会を秋に控える。世界的に大きな注目を集めた劉氏の死が民主化運動の活発化や共産党への批判につながることを強く警戒する中国当局は、追悼の動きを厳しく取り締まってきた。

 香港紙「蘋果(ひんか)日報」などによると、劉氏の初七日の7月19日に広東省江門市で追悼集会を行った少なくとも5人の活動家が「社会の秩序を乱した」容疑で公安当局に拘束された。

 集会では拘束中だった劉氏が欠席したノーベル平和賞授賞式にちなんで椅子が置かれ、ろうそくに火をともして劉氏の死を悼んだという。

 香港英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」(電子版)は、この集会を取材した香港のテレビ局の広州(広東省)支局が家宅捜索を受け、クルーを乗せた中国人ドライバーが拘束されたと報じた。

 また支援者によると、劉氏の遺骨が散骨された大連の海岸で追悼式を行った支援者らも警察に連行され約10日にわたり取り調べを受けた。

 劉氏の死の後、中国当局は言論規制を一段と強めている。

 国家インターネット情報弁公室は8月11日、国家安全を脅かす情報を流す利用者がいるとしてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「微信」や「新浪微博」、検索サービス「百度」の運営会社に調査を行っていると発表した。

 大手サービスを対象とする異例の措置で、根拠となったのは6月に施行されたインターネット安全法だ。

 テロやデマ、性的内容などを対象に、国家の安全や社会秩序を乱す行為を罰するとの条文があるが、文言があいまいで当局側の裁量が大きすぎるとの批判がある。

 ネット産業に詳しい関係者は「劉氏の追悼や顕彰を含め、党への挑戦を絶対に許さないというメッセージだ」と話している。【上海・林哲平】

(続く)