私は今年6月、同僚議員とともに、韓国で唯一内国人が入場できるカジノ、カンウォン(江原)ランドを訪問した。そこで見たものは、カジノ誘致に対する当初の期待とはほど遠い、呻吟し苦悩する街の姿だった。

「若者世代に顔向けできない」。地元自治体の職員が私に発した言葉だ。「この町は、韓国でも『奇怪な町』ということで有名になってしまった」。

そう、風俗店とサラ金・質屋が立ち並ぶ光景。それが韓国でもテレビで放映され、「奇怪な街」というレッテルを貼られてしまったのだという。

この町は1980年代、炭鉱の町だった。日本でもそうだったが、産炭地域は炭鉱の閉鎖で一気に存亡の危機に直面する。ほとんど唯一の地場産業がなくなり失業者があふれる。地域社会や雇用の維持のために、この町にとって、カジノ誘致は「必要悪」だった。

しかし、その目論見は見事にはずれた。当時、15万人だった人口は、現在3.8万人にまで落ち込んだ。風俗店(マッサージ店)が立ち並び、カジノですったお金を取り戻そうと質屋で借金する、その担保に供された車が路上に放置される。

身ぐるみ剥がされた中毒症患者が野宿し、地域住民と諍いを起こす。あまりの風紀や治安の乱れに、小学校が隣の町に移転するほどの町になり果てた。

「この町は、自殺率、たばこと酒の摂取率が韓国トップの町です」と自治体職員が嘆く。「カジノ場内で自殺した人も48人に上るという話があるが」とのこちらからの問いかけに、カンウォンランドの社長ですらそれを否定しなかった。

「ギャンブルもいくつかあるが、中毒症になる比率が一番多いのがカジノ。10人に7人という統計もある」とカジノ中毒症対策センターの所長。その結果が、この町の自殺率と犯罪率アップに如実に表れる。

カンウォンランドの社長は、最高検検事出身で国会議員もつとめた著名な方だ。パチンコを韓国で禁止した張本人でもある。

彼が社長であるのは、このカジノに公的資金が半分以上入っているからだが、逆にいえば、唯一内国人が利用できるカジノ(韓国にカジノは17カ所)には、それだけ公的性格を与え、しっかり規制、取り締まる必要があるということだろう。

その社長が、横浜にカジノを誘致するという計画があるという私の話を聞いて問うた。「江田さん、あなたの住む横浜は人口何万人ですか?」。「約370万人です」と答えると、「江田さん、絶対にカジノを誘致してはいけません」と。

そして続けた。「この山あいの田舎町でもこれほどの問題が起こっているのです。そんな都会に設置したら、規制すればいい、取り締まればいいといったレベルを超えた大変な問題が起こりますよ。政府も含めて、我々がここにカジノを誘致したのは、100万都市(大都市という意味)からアプローチしにくい、車で3時間以上かかるところに必要悪として導入するという考えだったのですから」。

これは政府当局者や中毒症患者対策センター所長の言葉ではない。そう、カジノ経営者の言葉だからこそ、私は大変重い言葉だと受け止めて帰国の途についた。「横浜には絶対にカジノを誘致してはいけない」という確信をもって。

こういう強い思いが、先般行われた横浜市長選に私を駆り立てていった。

江田憲司
衆・民進/党代表代行(筆頭)
1956年4月28日、岡山県に生まれ
東京大学法学部私法学科卒

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