さて、そろそろ完結だが、まずはスマン。
表現が不適切だったり、情報が足りない箇所があり、誤解させたかと。
その辺りの訂正含めて続き。

では、その『選別品』的負極が、他のものとどの程度性能が違っていたのか。調査が進むにつれ、それも段々怪しくなってきた。
公表されたデータでは、充放電を300サイクル繰り返し、400Wh/kgのおよそ90%を維持していることになっていた。
しかし、そもそもそのデータが悪質な詐欺まがいのものだとしたら?
で、実際そうだった。
実のところ、エンビアの技術チームは先の発表の二週間後、セルをクレイン(米軍海上戦センター評価部門)に送り第三者検査を依頼していた。
そこで出た試験結果でも、確かに400Wh/kgという数字を肯定されてはいた。
但し、それを維持できるのは2サイクルまで。
5サイクルでは302、100サイクルでは267まで落ち込んでいる。
従来型のスペックが250Wh/kg。
つまり、100回サイクルを回しただけで従来型並みになってしまうということ。
一方、GMに至っては2サイクルさえも400Wh/kgを維持できなかった。
尚、GMは事態発覚後、信越化学そのものの素材も使用し実験したが、結果は同様だった。
その程度の差だってこと。
しかも、エンビアでは信越化学が送ってきた素材を最適化するため、更に複雑な加工を施している。
『オーバースペック』の原因と思われる、不純物の混入はそこで行われた可能性もある。
だから、要因の特定はほぼ不可能。しかも、特定出来たとしても高々数十サイクルしかその性能を維持できない。
エンビアが資料で使ったカラクリはこうだった。
クレインからの報告後行われたニュースリリース上では、その資料には全く触れず、基準値を『エネルギー密度』から『容量』にすり替えていた。
説明のため、話をムチャクチャに単純化する。

[電力]=[電圧]x[電流]ってのは良いよな?
エネルギー密度ってのは、文字通りエネルギー、つまりこの式に於ける左辺そのもの、電圧と電流の積に対する指標。
それに対して、容量ってのは電流の量「だけ」を示す指標なんだよな。
で、極の劣化によエネルギー密度が下がる場合、主に下がるのは電圧の方であり、電流は結構維持されていることもある。
まあ、そういうことだ。
電圧は劣化して下がりまくり、それと電流の積である電力もボロボロになっているのに、それを隠して電流の値だけを公開し、『9割維持』とかやっていたってこと。

しかし、そもそもエンビアは何でここまでのことをやらかしてしまったのか?
行き過ぎた功名心だとしたら、こりゃ小保方レベル、サイコパスの境界例だろ?
ただ、エンビアは通常型のNMCなどにおいては小規模ながらちゃんとした実績を積み重ねてきてた。
て言うか、海外ではともかくアメリカ国内においては完全に埋もれていたアルゴンヌのNMC特許を掘り起こし、事業化するというアイディアそのものは、自国市場が未発達なアメリカではリスキーではあっても、それなりに筋は通った、真っ当なベンチャーであったとも言える。
いや、ベンチャーだった『から』かも知れない。
ここは既に社会人経験豊富なオッサンしか居ないみたいだしw、もうピンと来た人も多いかと思う。
アメリカ的ベンチャーではむしろ主流の『会社そのものが商品』という、そういう側面で見ると状況が見えてくる訳で。
エンビアは、とにかく大きな実績が欲しかったんだろうな。
内実はどうあれ、GMみたいな巨大企業と契約っていう事実そのものが欲しかったと。
そうすれば、相当有利な条件で株式を売却出来、経営陣らは会社を手放す代わりに巨額の富を得る。
そこまで行けば、もう逃げ切り。後は野となれ山となれ。
ま、日本でも一時持て囃された、『アメリカ的起業精神』のダークサイドだわなw
企業そのものが商品化した結果、事業を興すにあたっての社会的責任や道義といったものは時として軽視されがち。
とにかく『売れるように派手な看板の企業』を作って、大手が買いに来るの待ち構えるとか。
因みにこれは、氷山の一角だったり。
ここでは煩雑になり過ぎるので詳細は省くが、アメリカ政府がクリーンエネルギー政策を打ち立て、電気自動車はじめバッテリー関連がアツいと見るや、こういうベンチャーが次々に立ち上がり、そして大半は消えていった。
ただエンビアは、相手がGMという巨大企業だったんで、やたら目立っただけ。
GMも手慣れたもんで、エンビアがどうやらダメらしいと見るや、即契約打ち切り。
投資金の回収や損害賠償など一切無し。
何でこんな手ぬるいかって?
アメリカビジネス、特に今のバッテリー業界では、こんなのが『日常』だったんだから。
ただ、それだけだったんだよ。