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反戦主義者は好戦的 世界中で見られる傾向

 ソ連文化の研究に詳しい高橋健一郎・札幌大学教授によると、ソ連共産党機関紙「プラウダ」に掲載されたスローガンには、「敵対者」を「平和の敵」と見なして、戦闘的であることにプラスの価値をつけるパターンが見られるという。代表的なのが、以下のスターリンの名言を引用したスローガンだ。

 「われらは平和を擁護し、平和の事業を守っている。しかしわれらは脅しを恐れないし、戦争挑発者の攻撃に対しては攻撃で応える用意がある!ソビエトの平和政策万歳!」(高橋健一郎・ソビエトスローガンの詩学)

 こういう過去を見れば、ソ連の系譜にある北朝鮮が、「戦争挑発者であるのはトランプ政権であって、その領土の近くにミサイルを落とすことが、『反戦平和』のためになる」と信じて疑わないというのは容易に想像できよう。

 やはり社会主義者とはわかりあえないな、と思うかもしれないが、実は日本国内でも北朝鮮や旧ソ連と同様に、「反戦平和の闘争」を掲げて気を吐いていらっしゃる方がちょこちょこいる。

 8月9日、長崎の平和公園で行われた式典会場近くに現れ、参加者が鎮魂の祈りをしている間、笛を吹き鳴らしながら「政権打倒」「安倍を倒せ」と喉を枯らせた人々もそれにあたる。

 「産経新聞」(8月10日)によると、この集会を主催したのは、「8・9長崎反戦闘争実行委員会」。その名からも、反戦平和のために戦いに心血を注いでいらっしゃる方たちだというのは間違いない。実際、同紙によると、集会はこんなスローガンで始まったという。

 「日本帝国主義がアジア各国を侵略したことを踏まえ、どのような立場で、戦いを作っていくのかが問われている」

 「反戦平和」を望む人たちが、どうやって相手をぶちのめそうかと考えるなんて、矛盾していると思うかもしれない。ただ、「8・9長崎反戦闘争実行委員会」のみなさんをかばうわけではないが、これはなにもこの人たちだけのことではなく、古今東西の「平和」を愛してやまない方たちに共通して見られる特徴なのだ。

平和を実現するために戦争を研究する

 英国の著名な戦略思想家、ベイジル・リデルハートは、英ブラッドフォード大学のマイケル・パフ教授の論文の中で、このように述べた。

 「たくさんの平和主義者の友人と付き合っていて、彼らの意見にもちろん共感する。しかし、戦争の廃絶ということではほとんどがっかりすることが多い。なぜなら、彼らの強烈な平和主義の中には、ケンカっ早さが見えてしまうからだ」(PACIFISM AND POLITICS IN BRITAIN 1931-1935)

 「平和」を愛する人たちは、自分たちの主張が確実に正しいと思っている。だからこそ、自分たちと異なる主張をする者たちを受け入れられない。説き伏せたり、選挙などで失脚させたりすればいいが、それができなければどうするか。「平和の敵」である「悪」は力づくで取り除くしかない、となるのだ。

 ラブ・アンド・ピースを信条として、「反戦」のメッセージを強く押し出した曲も歌ってきたマドンナが、トランプ批判の勢いあまって、「ホワイトハウスを吹き飛ばしたいって、心の底から思ってる」なんて口走ってしまうのは、この「ケンカっ早さ」が原因だ。

 このように「平和の敵」を「打倒」して、徹底的に「倒せ」ということを突き詰めていくと、ユダヤ人たちに憎悪を向けたナチスドイツの姿と重なっていくというのは言うまでもない。

 こういう歴史の教訓がある欧州では、「反戦平和」を唱えるだけでは、その時代や社会のなかで「平和の敵」とみなされた人々が憎悪を向けられるだけで、なんの解決にもならないということに気づいている人が多い。だから、多様な見方をすることが推奨される。その代表が、「戦争学」という学問だ。

 軍事利用される研究を大学側がボイコットすることがブームになっている日本の大学にもし、こんな学部が設立されたら、「反戦平和の闘争」を掲げて笛を吹き鳴らす人々が押し寄せてきそうだが、「戦争」という言葉を耳にしただけで条件反射的に「反対」を叫ぶ「朝日新聞」にも、その存在意義がちゃんと説明されている。

 『戦争学部は、英戦略家リデルハートの「平和を望むなら、戦争を理解せよ」という理念を基にする。あらゆる学問の英知を結集して、戦争という現象を徹底的に検証する』(2015年2月20日 朝日新聞)

安易な宥和政策は北朝鮮の暴走を招く

 では、このような戦争学の立場にのっとって、今回の北朝鮮のミサイル外交を検証したらどうなっていくのか、ということに非常に興味がある。

(続く)