性犯罪者の再犯防止に向け、対象者の足首に衛星利用測位システム(GPS)機能のついた足輪を装着させ、常時行動を監視する法制度が韓国で2008年に施行されてから、今年で10年目を迎えた。装着者は2800人を超え、韓国政府が着実な成果を強調する一方で、足輪をつけた状態で再犯に及ぶ事件も目立っている。

 制度の改善を急ぐ韓国とは対照的に、日本では東日本大震災の発生を境として、議論自体が止まったままになっている。(外信部 時吉達也)

■足輪装着したまま女子トイレ侵入

 7月26日未明、ソウル近郊、城南市の商店街の一角。全力疾走でそれぞれ別々の方向に走り去る男女を、長さ20センチを超える包丁を手にした男が追う。防犯カメラに収められたショッキングな映像は、各局のニュースで大きく取り上げられた。

 女子トイレに侵入して21歳の女性への性的暴行を図り、その後付近にいた女性の知人男性を包丁で刺したなどとして逮捕されたのは、近くに住む38歳の男。強盗強姦の罪で6年間服役し、13年に出所したこの男は、ジーンズで隠された足首に電子足輪を装着していた。

■再犯率は1/8に減少

 再犯率の高い性犯罪の防止に向け、08年の「特定性暴力犯罪者に対する保護観察と電子装置装着等に関する法律」施行でスタートした電子足輪制度。居住地から半径2キロの監視範囲から外に出たり、指定された制限区域に立ち入ると24時間体制で保護観察所に報告される仕組みだ。

 当時は装着対象を複数の性犯罪前科がある出所者などに限っていたが、法改正が繰り返され対象は徐々に拡大。法律名から「性暴力」が外れ、現在は未成年者誘拐や殺人、強盗などの前科も適用対象となったほか、装着期間も当初の最長5年から同30年まで延びた。

 韓国法務省によると、性犯罪の前科がある対象者は16年時点で2894人で、制度が導入された08年の205人から約14倍に増加している。

 再犯率は制度施行前が14・1%だったのに対し、施行後は1・7%と、8分の1以下にまで大きく減少。韓国法務省は「国民の多くが、再犯抑制に効果があると認識している」と誇る。

■制度不備突き「銭湯のロッカーの鍵」扱いも

 一方、絶対数でみると装着対象者による同種再犯は年々増加。11年が17件だったのに対し、16年には62人に上った。

 充電システムや通信接続の不備を突いて犯行に及ぶ“手練れ”も登場し、「電子足輪を『銭湯のロッカーの鍵』扱いする犯罪者が増えている」(朝鮮日報)との懸念が高まっている。先月26日に逮捕された冒頭の男の場合は、そもそも夜間の外出禁止などが義務づけられておらず、制度が効果を発揮しなかった格好だ。

 また、14年には監視対象者が足輪を外して性暴行に及びながら、保護観察所や警察が翌日夜までその事実に気づかないという事件も発生。保護観察官1人が対象者18人を担当するなど、急増する装着者数に管理体制が対応できていないのが実情だ。

■目標は「マイノリティー・リポート」

 多くの課題が指摘される中、政府が「既存システムの限界を克服できる」と意気込み、来年から試験運用を始めるとしているのが、ビッグデータを活用した「知能型電子監督システム」だ。過去の行動パターンや周辺状況から犯罪の兆候をつかみ、事前に犯行の危険性を予測する。

 法務省はシステムを紹介する公式ブログの中で、予知システムにより殺人発生率が0%になった世界を描くトム・クルーズ主演のSF映画「マイノリティー・リポート」に言及。「犯罪が起こる前に時間、場所を予測して捕まえる」との将来を描く。

■日本では議論進まず

 性犯罪者らにGPSの取り付けを義務づける国は韓国のほかにも米国や英国、フランスなどがあるが日本では、制度導入を進める動きはないのか。一時は盛り上がりかけた制度の可否をめぐる議論を封じる格好となったのが、11年3月11日の東日本大震災だった。

 当時、宮城県が性犯罪の前歴者らを対象に、GPS端末の携帯を義務付ける条例の検討を表明。

http://www.sankei.com/premium/news/170817/prm1708170008-n1.html

>>2以降に続く)