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しかし、ソウル市はバスについて事前にメディアへの広報をしており、実際に朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長も初運行の14日朝からバス車内で慰安婦像と面会した。

朴市長は慰安婦像に神妙な面持ちで手を添えるなどし、「犠牲になった人(元慰安婦)を悼む機会になる」と語った。また、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意に代わる「新たに国民が納得できる合意」が必要などとも述べた。

慰安婦問題で日本に抗議する日本大使館前での水曜恒例の集会に進んで参加したり、ソウル市内に慰安婦追悼のための施設「記憶の場」を造成した朴市長らしいパフォーマンスに映る。

日本人であれ、韓国人であれ、見る者によってはコミカルに見えるバス車内の慰安婦像ではあるが、朴市長のように真摯(しんし)に「追悼対象」とみなす人もいる。パフォーマンスができる格好の対象でもある。

慰安婦像は車内が混もうが、高齢者や障害者や妊婦が座りたがろうが、席を譲ることもなく“慰安婦バス”が運行される9月一杯、車内に居続ける。慰安婦像を乗せたバスは、今日もソウル市内を巡回している。

■北への危機感、さらに全くなし

国際社会が北朝鮮問題で騒いでいるのに、それほど今の韓国はのんびりしている。慰安婦像や徴用工像、そして慰安婦バスに関する一連の話は、そんな韓国の状況を伝える好例だ。

いつものことだが、米国と北朝鮮の間で軍事的緊張が高まるなか、韓国では今回も緊張感が感じられない。ソウルに最近やってきた日本人の知人は、まずその意外な感じを口にする。市民がふだん通りの日常生活を送っているのを目にするためだ。

今年4月に北朝鮮をめぐって国際社会が緊張した際、朝鮮半島有事に向けた日本での懸念や危機意識に対し、韓国では逆に「日本が不安感や危機感をあおっている」といった批判がメディアを中心に起きた。

隣国で戦禍に巻き込まれる危険性がある日本の当然の危機感を、当事者である韓国では「大げさだ」「行き過ぎだ」などと一笑に付した。

現在のソウルに住んでいれば、そう思ってしまうのも無理はない。先述のように社会全体に全く緊張感がないからだ。そして、緊張感のない韓国で何日間、何週間かを過ごし、「日本より北朝鮮に近いソウルはとても平穏で平和だった」と思い込んで帰国する日本人は多いはずだ。

ソウル在住の日本人の間にも、「日本の一部メディアが危機感をあおっている」と言ったり、韓国メディア同様に「大げさだ」と主張する人もいる。

主張や受け止め方は自由だ。ただ、韓国、ソウルは北朝鮮と軍事境界線を隔てて接しており、海を隔てた日本とは違うとはいっても、韓国からは北朝鮮の中を詳細に見ることはできない。

金正恩政権の北朝鮮内部で今、具体的に何が起こり、何が企てられているのかの真相は、日韓問わず外からは分からない。突き詰めれば北朝鮮の金正恩委員長にしか分からない。 朝鮮半島での有事がないという確証はない。

■余裕なのか、思い過ごしなのか

長らく韓国にいると、外から見た客観的な朝鮮半島情勢について知りたくなることがある。

韓国国内の社会的な雰囲気に慣らされ、「自分も感覚がマヒして始めていないか」「果たしてそうなのか」と思うことがあるためだ。そんな時は必ず、日本から見て北朝鮮と韓国、朝鮮半島は現在どのように見えるのかを、日本にいる知人らに聞くことにしている。これは必要なことだ。

朝鮮半島情勢が緊張する一方での韓国社会の緊張感や危機感のなさについて、南北の格差、豊かさを得た韓国の余裕が背景にあるとの見方が日本などにはある。

ただ、現在の当地での皮膚感覚として、こうした韓国の“余裕論”は10〜15年ほど前ならば言えたことだろう。もし現在もそうならば、思い過ごしに過ぎない。

すでに北朝鮮が公開し、日米をはじめとした国際社会が認めているように、北朝鮮の弾道ミサイル技術は飛躍的に進化している。これは韓国当局も認めるところだ。北朝鮮は狙った所にミサイルを撃ち込み、自ら誇示しているように、ミサイル技術を確実に向上させていることは断言できる。

このままでは、今後も北朝鮮の核、ミサイルは間違いなく進化を続けることだろう。核・ミサイルをめぐる北朝鮮の脅威は全く低下しておらず、むしろ、より悪化している。

■北朝鮮と共同での徴用工被害の実態調査

(続く)