韓国の文在寅大統領が、徴用工問題をめぐり個人の賠償請求権があると公式に発言した。

言うまでもなく、賠償問題は昭和40年の日韓協定で解決済みである。協定は国交正常化に伴い取り交わされ、両国関係の基盤となるものだ。

従来の見解を覆し、基盤を損なう発言は、断じて容認することができない。

これは、正常な外交関係の継続をも困難にする異常事態といえる。政府は厳重抗議し、撤回を求めるべきである。

発言は、就任100日の記者会見におけるものだ。

文氏は、元徴用工らの訴訟をめぐる平成24年の韓国最高裁の判断を挙げた。「強制徴用者個人」が日本企業を相手にする民事的権利は残っている判例だといい、「政府はこの立場で歴史問題に臨んでいる」と述べた。

だが、その判例自体が「日本の植民地支配は不当な強制的占拠」などと、史実を無視して示されたものである。戦時徴用について「強制労働」との批判も誤りだ。法令(国民徴用令)に基づき、合法的に行われた勤労動員だ。

日韓請求権・経済協力協定では、日本が無償供与3億ドル、有償2億ドルを約束し、戦後補償問題は「完全かつ最終的に解決された」ことが明記された。韓国はこの5億ドルをインフラ整備などに充てることによって「漢江の奇跡」と呼ばれる経済復興を果たした。

無償3億ドルには、個人の被害補償問題の解決金も含まれている。盧武鉉政権でこれを認める見解をまとめており、当時大統領側近だった文氏が知らぬはずはない。

文氏の発言は戦後補償の枠組みのみならず、国交関係そのものをおかしくする暴言だが、そうした認識はないのだろうか。「反日」発言で国民に迎合する傾向が強いにしても、限度を超えている。

徴用工訴訟は、韓国の裁判所で日本企業に賠償を命じる判決が相次ぎ、係争中のものもある。賠償命令が確定すれば、資産差し押さえなどの懸念がある。政府はその違法性を訴えるべきだ。

慰安婦問題が社会問題になったのは、国交正常化交渉時より「かなり後」とも言い出している。だから、日韓合意を蒸し返す権利があるというのだろうか。

請求権を認めたいなら、日本とは関係のないところで、自国民との間で解決を図ればよい。

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12日、ソウルの竜山駅前に設置された労働者像に触れる元徴用工の金漢洙さん(共同)
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「光復節」の記念式典で演説する韓国の文在寅大統領=15日、ソウル(共同)