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北朝鮮の生命線

金正恩委員長は、2011年末に父・金正日総書記の急死を受けて北朝鮮の実質上トップに立った。以降、内政に専念してきて、一度も出国していない。だが、一度だけ出国しようとしたことがある。それは、2015年5月のロシア祖国解放70周年軍事パレードへの参加だった。

当時、それほどロ朝は蜜月関係を築いていたのだ。この時の経緯については、当時のこのコラムで書いたので重複は避けるが、金正恩委員長のモスクワ訪問ドタキャン事件の責任をとらされた玄永哲人民武力部長(国防相)が処刑されてしまった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43354)。

北朝鮮の石油に関しては、中国の大慶油田からパイプラインを使って毎年50万トンの「友好援助」が、胡錦濤・金正日時代には提供されてきた。だが、習近平・金正恩時代になって、だいぶ減らされた。

今現在どのくらい供給されているのかについては、胡錦濤・金正日時代の55〜60%説、3分の1説、ゼロ説など諸説あって定かではない。いずれにしてもかなり減量されていることは確かで、かつ、いつ何時、完全にストップしてもおかしくない。

ある中国の外交関係者は、私にこう言った。

「習近平主席が大嫌いな政治リーダーが、アジアに3人いる。日本の安倍晋三首相、台湾の蔡英文総統、それに北朝鮮の金正恩委員長だ。だからこの3人が統治している限り、日本、台湾、北朝鮮と友好関係を結ぶことはありえない」

こうしたことから北朝鮮は、一も二もなくロシアを頼った。ロ朝間で合意したのは、「友好価格」で鉄道を使ってロシアから北朝鮮に石油を運び入れることだった。

2001年に金正日総書記がモスクワを訪問し、プーチン大統領との首脳会談で、両国間に鉄道を敷設することで合意した。日本植民地時代の線路を活用し、ハサン-羅先(ラソン)間54qを結ぼうという計画だ。

この計画は、その後ロシアが北朝鮮を無視したことで遅れたが、2008年10月、両国の国交樹立60周年記念事業としてようやく着工した。そしてそれから5年、2013年9月に、開通式典が羅先港第三埠頭で行なわれ、全吉寿(チョン・ギルス)鉄道相とヤクニン・ロシア鉄道社長ががっちり握手したのだった。

ちなみにこの事業の旗振り役だった張成沢党行政部長は、開通式典には参加せず、それから2ヵ月余り経った同年暮れに処刑されてしまった。

以来4年が経ち、かつて張成沢部長が主導していた中朝関係がいよいよ悪化してきた現在、この鉄道を使った石油供給は、北朝鮮の生命線となりつつある。

ICBMに関する「ロ朝密約」

もう一つのICBMについては、先週14日に、IISS(英国際戦略研究所)のロケット技術の専門家マイケル・エルマン氏が、衝撃的な証言をした。

「北朝鮮の『火星14型』(ICBM)や『火星12型』(中距離弾道ミサイル)は、旧ソ連のロケットエンジンを改良して使っている。この2年余りで北朝鮮がICBMの技術を急速に発展させた背景には、旧ソ連のロケットエンジン入手があった」

この証言が世界を駆け巡って以降、ロシアとウクライナは、互いに責任をなすりつけ合っている。ウクライナ危機によって国内が混乱し、ウクライナからICBM技術が流出したというのがロシアの言い分。

一方のウクライナは、「政府として北朝鮮に技術を流出させてはいない」とした上で、プーチン政権からの流出を匂わせている。

どちらの言い分が真実なのかは、いまだ審らかになっていないが、これまで述べてきた経緯からみて、ICBM技術に関する「ロ朝密約」が存在しないとは言い切れない。

もしくは、ロシア側が北朝鮮に、ウクライナのこういうルートで入手できるとお膳立てをした、またはサジェッションしたことも考えられる。

いずれにしても、ロシアとしては北朝鮮にICBMを早急に開発してほしかったのである。なぜならそれによって米朝関係が悪化するのは確実だから、アメリカの目はイラン、シリアなど中東に向かなくなる。

またロシアの最大の敵であるNATO(北大西洋条約機構)の強化も後回しされる。加えて、中朝関係も悪化するから、中国がロシアを裏切るリスクも軽減されるというわけだ。

ロシアにとって唯一の難点は、朝鮮半島危機によって極東地域の経済開発が遅れることだ。だが、それでも北朝鮮がICBMを振りかざすことによるロシアのメリットは、デメリットをはるかに上回るのである。

(続く)