ソウルで美術品の流通を手掛ける会社で働きたかった28歳のチュ・イェリムさんは昨年、応募の際に身長と体重を尋ねられた。米国で同業種のインターン経験もある大卒のチュさんは「能力と全く無関係」だと強い憤りを覚え、結局、美術誌での仕事に就いた。

韓国でなければ、こうした慣行には苦情が殺到し、そんな質問をする企業は提訴されるかもしれない。この種の情報に加え、求職者の年齢や宗教、家族の職業さえ聞かれることが一般的なのが韓国の実情だ。

奇妙な個人情報が求められることもある。ヤン・チャンモさん(26)は血液型を聞かれたことがある。面接中にしばしば受ける質問は「お酒は飲めますか」だという。韓国の企業文化では、同僚と酒を酌み交わすことも大事なのだ。

5月に就任した文在寅大統領は常々、裕福でなかったり、社会の主流から取り残された人々が差別されていると指摘してきた。選挙戦では特に労働市場おける格差是正に向け、こうした慣行を禁止すると主張。

重工業中心だった韓国経済が高付加価値産業に軸足を移す中で、タイバーシティー、つまり多様性が一段と重視されることになる。
 
企画財政省と雇用労働省は最近の共同声明で、民間企業が尋ねることができる質問についての指針を公表すると発表。この指針に拘束力を持たせるため法改正をにらんでいると説明した。

政府はすでに公的部門で行動を起こしている。8月末までに481の官公庁・公営企業で求職者に対し親族関係や身体的特徴など一部個人情報を求めることを禁止する。

韓国企業は人材採用であまりにも出身大学を気にし過ぎ、これが一部の大学に人気が集中する不健全な受験競争を招いているという声も聞かれる。

こうした学歴偏重は暗記重視の教育につながり、優秀だが裕福でない家庭の出身者が不利になりやすいと批判されている。

過熱する塾通いなどの問題に対処するため設立された非営利団体のアン・サンジン代表は「学歴が『悪い』とされる人々に対する差別が長い間の慣習となってしまっている」と話す。

漢陽大学のイ・サンミン教授(社会学)は新たな法律で正しい方向に踏み出すとともに、長期的には差別的慣行の根底にある偏見を一掃する必要があると述べている。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-21/OV0ZQM6JTSE901