朝鮮半島有事における今後の展開として、どのようなシナリオが起こり得るのだろうか。

不確実性が増す昨今、未来のシナリオを予測するにあたり構造変化などの根本的な変化の可能性といった極端な要因も踏まえてストーリーを描くというアプロ?チは、危機対応能力を高める上で非常に重要となる。

この観点に基づき、極端な要因も省略することなく「戦争勃発シナリオ」「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」という4つのシナリオを想定し、それぞれが世界経済、ひいては日本経済に与え得る影響について分析を試みてみたい。

本稿では最後の1つにあたる「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」をご紹介する。

■韓国の文大統領の対北朝鮮融和解決策の動向は

朴槿恵前大統領の弾劾・罷免を受けて5月に韓国で大統領選挙が行われ、文在寅大統領による9年ぶりとなる革新政権が誕生した。

文氏は大統領就任後の演説でも北朝鮮核問題の平和的解決に向けて国際社会で主導的な役割を果たすと述べ、先月6日にはベルリンで「新朝鮮半島平和ビジョン」として南北対話再開へ向けて動く決意を表明した(ベルリン構想)。

文氏はこのベルリン構想の中で、これまでの韓国保守政権と異なり吸収統一や人為的な統一などは一切推進しないとも述べている。

このように韓国が北朝鮮との対話に向けて大きく舵取りをする中、北朝鮮からの反応はいまのところない。

それどころか7月には2回弾道ミサイルを発射、また8月には米領グアム付近へ弾道ミサイルを発射する準備を完了すると発表して、アメリカに対する挑発行為を続けている状態だ。

北朝鮮対アメリカの緊張感が続く中で、朝鮮半島が統一するなどの「世界融和シナリオ」の可能性は現状少なく見えるとはいえ、北朝鮮の経済状況に好転がまったく見られない場合は、経済改善に向けたウルトラCとして融合の道を選択する余地はあるかもしれない。

とりわけ、日本や米国の防衛力が強化されて、ミサイル防衛システムなどの能力向上が明らかになった場合などは、よりこの方向性が進む可能性があると見られる。

なお、著名投資家のジム・ロジャーズ氏は過去に「もし、韓国と北朝鮮が統一されれば、今後20〜30年にわたり大きく発展する余地がある」と発言している。

また、「(資源が豊富な)北朝鮮有事は買い、仮にカタストロフィックなことが起きれば、それが朝鮮半島統一のきっかけになり得る」との見方なども以前はなされていた。

■統一の実現性が乏しい これだけの理由

ただしこのシナリオの実現可能性が低いと見られるのは、統合による韓国のコスト負担が膨大になることである。

韓国大統領の諮問機関が作成した報告書によると、北朝鮮が開放政策を取らないままに崩壊した場合、30年間で2兆1400億ドルの統一コストがかかるとされている。

さらに、ベルリン大学のクラウス・シュレーダー教授によると、東西ドイツの統一にかかった費用は、社会保障関連コストを反映すると2兆ユーロにのぼったと指摘している。

東ドイツの人口は西ドイツの27%程度に過ぎなかった半面、北朝鮮の人口は韓国の50%程度の水準にある。また、1人当たりGDPは東ドイツが西ドイツの50%だった一方、北朝鮮は韓国の5%にも満たない。

韓国諮問機関の報告書をさらに上回る負担になる可能性は高い。統合負担増によって、韓国経済は大きく落ち込むことになろう。

米国にとっては、朝鮮半島が中国への抑止力につながっていたこともあり、韓国と北朝鮮の融合は、米国の韓国からの撤退で、中国に対する「睨み」が利かなくなってしまう可能性も高まる。対中国政策からすると望まれないシナリオとも捉えられる。

また、中国にとっても、別のリスクが浮上する。中国には中朝の国境地帯で200万人近くの朝鮮族が暮らしている。仮に統一朝鮮が出現してしまうと、こうした朝鮮族の民族意識の高まりにつながり、中国の内政問題に発展するリスクをはらんでいる。

https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201708230422

>>2以降に続く)