>>1の続き)

そして現代の「中間階級第一類」たるネット右翼は、なまじの中産階級であるがゆえに、可処分所得や可処分時間が多く、インターネットの世界にのめり込んでいく。さらにお気に入りの保守系言論人・文化人に寄生し、彼らの著作や会員制の有料サービスを購入する、という購買力を持つのである。

もしネット右翼が社会的底辺であり、貧しき弱者の存在であるなら、保守系言論人・文化人に「寄生」と「(著書購入等の)見返り」の関係で共依存している関係性を説明することはできない。

彼らの小ブルジョワ的無数の購買力が、彼らに「寄生」される保守系言論人・文化人の生活を支えているのである。

ネット右翼は全国にどれだけいるのか

一時期のような猛烈な勢いは失われつつあるものの、未だにネット上に跋扈(ばっこ)し、またそれがゆえにネット世論の右傾化をリードしているようにも思えるネット右翼の全国的趨勢は、いかばかりなのだろうか。

つまりネット右翼は全国に何人くらい、何万人ぐらいいるのだろうか。これは、彼らを語るうえで避けて通ることのできぬ前提事項である。

ネット右翼の実数は、近年まで謎のベールに包まれていた。日頃ネット右翼が極めて右派的、保守的な思想傾向を「宿主」である保守系言論人・文化人に寄生することで開陳しているのは、すでに第1回の記事で述べたとおりであるが、彼らの実数をうかがい知ることは困難であった。

なぜなら最も有力な指標となる国政選挙において、ネット右翼の投票行動のほとんどは自民党票に吸収されてしまい、全国的概数を知ることができなかったからだ。

これが、「日本の左派(左派寄りの無党派層を除く)の実数はどの程度か」という質問ならわかりやすい。彼らの思想傾向を代弁する国政政党、日本共産党と社会民主党の全国比例区での総得票数が、おおむねだがその答えを教えてくれる。

投票率にもよるが、おおよそ前者は400〜600万人、後者は100〜150万人である。

ある種の宗教団体がバックとなって設立された政党の比例代表の総得票数をもって、その教団の信徒数の概数を推察できるのと同様、ネット右翼のそれも、本来であれば彼らの思想傾向を代弁する国政政党の比例代表総得票数を以ってその実数を推し量ることができるはずだ。

しかし、前述の理由によりネット右翼の思想傾向を代弁する全国政党は存在せず、長年の間そのほとんどが自民党への投票に紛れてしまっていたため、分別は困難であった。

このような状況が一変したのが、2014年11月の衆議院総選挙である。

この選挙を控えた同年7月、主に日本維新の会から分派して「次世代の党(現・日本のこころを大切にする党)」が結成された。

同党は「自民党よりも右」を標榜して、ネット右翼に圧倒的な人気を誇った田母神俊雄元航空幕僚長などを擁立し、積極的にネット右翼層への浸潤を図った。ネット右翼の持つ思想的傾向を、初めて国政レベルで代弁する党こそが、この「次世代の党」であった。

総選挙の結果、「次世代の党」は比例代表で総得票数約141万5000票を獲得したものの、公示前の19議席から17議席を減らして2議席となる壊滅を喫した。

一方で筆者は当時、同年1月に行われた猪瀬直樹東京都知事辞任を受けての出直し都知事選挙で、ネット右翼から圧倒的な支持を集め立候補した田母神氏が約60万票を獲得したことを受け、ネット右翼が首都圏に偏重していることを加味して、ネット右翼の全国的実数をおおむね200〜250万人と予想していた。

「次世代の党」の総選挙における比例代表総獲得票数も、投票率が50%強であったことを加味すると、やはりその支持層の全体は概ね200?250万人として差し支えなく、この選挙においてはじめて、ネット右翼の全国的実数の概要が判明したのである。

減っているわけではないが…

続く2016年7月の参議院通常選挙において、既に党勢がかたむきつつあった「次世代の党」は、「日本のこころを大切にする党」と名を変えたが、全国比例区における総得票数は約73万4000票と半減してしまった。

しかし、この間約2年弱でネット右翼の実数が半分になったのかというとそうではない。ネット右翼の全国的実数が約200〜250万人であることはむしろ補強されたのである。

というのも、「日本のこころを大切にする党(旧次世代の党)」が2014年衆院選における比例総得票数を半減させた分、ネット右翼の投票行動は彼らが個人的に嗜好する保守系言論人・文化人への投票に向かったからだ。

(続く)