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李在鎔副会長が大株主である第一毛織と、サムスン電子の大株主であるサムスン物産を合併させることで、間接的に李在鎔副会長のサムスン電子に対する支配権を強めようとしたというのが特別検察の見立てだ。

2社が合併するためにはもちろん株主総会の議決が必要だ。2015年7月のサムスン物産の総会では、米系ファンドなどが「一般株主の利益を無視した経営権継承のための合併だ」などとして反発し、票読みは微妙だった。

ここで決定的な役割を演じたのがサムスン物産の株主を11%も保有していた国民年金公団だった。

特別検察は、サムスン側が、大統領に請託をし、その結果、国民年金公団が合併賛成に回ったと見ている。

サムスングループは、「合併と経営権継承作業とは何の関係もない。合併によって事業上のシナジー効果を期待した」と反論する。

だが、7月14日に公判に証人として出席した金尚祖(キム・サンチョ=1962年生)公正取引委員長は、「合併は経営権継承作業の一環だった。大統領の協力が必要だった」と特別検察の考えを裏づける証言をしている。

求刑公判で、特別検事が読み上げた論告文は簡潔に今回の犯罪について説明している。

典型的な政経癒着

A4用紙で12ページに及ぶ「論告文」を読んでみた。簡潔な内容なので、紹介しよう。特別検事は冒頭でまずこう述べた。

「裁判過程を通して被告人の態度を見るに、わが国GDP(国内総生産)の18%を占める最大のサムスングループが、国家と国民のためではなく、グループ総帥のための企業ではないのかとの疑いを抱かざるを得なかった」

罪を認めなかったと批判したのだ。さらに今回の事件についてはこう規定した。

「この事件の実態は、典型的な政経癒着と国政壟断(ろうだん)の例だ…
この事件は、『大統領からチョン・ユラの乗馬訓練支援などの要求を受け、被告である李在鎔が大統領から職務上の手助けの対価として巨額の系列企業資金を横領して300億ウォンにたっする賄賂を供与した事件』である」

「被告は、この賄賂提供過程で、国内財産を不法に海外に送り、犯行を隠蔽し、国会で偽証までした」

「通常、企業グループによる賄賂事件の場合、最も立証が難しい部分は、お金を渡した事実と、グループ総帥が加担したという事実だが、本件については、被告が自ら300億ウォンを渡した事実、さらに李在鎔が大統領と単独で会った事実、資金支援を指示した事実を認めている」

「すなわち、通常、賄賂事件で立証が最も難しい2つの部分を、被告が自認して、さらに公判過程でも確認したように、関連証拠によると、単独会談で経営権継承などの懸案について論議があったことも立証されている」

賄賂罪では、不正な請託があるか、職務権限があるか、対価性があるか――の3点がポイントになる。特別検事は、いずれも該当し、立証できたと述べている。

5つの罪状のうち、「財産海外逃避罪」は、50億ウォン(1円=10ウォン)を超える場合、法定刑が「無期または10年以上」で「賄賂供与」よりも重い。今回は78億ウォンで、これに該当するのだ。

副会長は何も知りません

50回以上続いた公判の攻防で、李在鎔副会長もサムスングループの旧経営陣も、不正な請託を全面的に否定している。

資金供与は、大統領からスポーツ振興などのために求められたもので、断れなかったと主張する。賄賂ではなく、「強要」つまり、サムスン側は被害者だという立場だ。双方の主張は全面的に対立している。

公判終盤で、サムスン側は、「李在鎔副会長は何も知らなかった」という主張を強めた。グループの司令塔である未来戦略室(解体済み)の崔志成(チェ・チソン1951年生)前副会長は、「李健熙会長が倒れて以来、グループの重要意思決定は私が下した」と述べた。

必要なことだけ李在鎔副会長に報告したというのだ。李在鎔副会長は経験も少なく「総帥ではなく、後継者に過ぎなかった」などとも証言した。

李在鎔副会長は、「全権を持つオーナー総帥」ではまったくない。すべては、実務者が判断して決めており、李在鎔副会長は何も知らなかった。

不正請託などなかったことはもちろん、李在鎔副会長が、経営権の継承などを指示したことも、判断したこともないという主張だ。だから大統領との単独面談で、「請託」をする事などあり得ないという主張だ。李在鎔副会長も、この主張に歩調を合わせた。ただこうした態度には強い批判も上がった。

(続く)