>>1の続き)

脱原発など安倍政権の基本的なスタンスと異なる主張も少なくありません。しかし一方で集団的自衛権に関しては、2014年の閣議決定で新たな憲法解釈が示され行使が容認される以前から「認めるべきだ」という発言をしています。

私は『共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊』(講談社・牧野洋との共著)をはじめ河野太郎外相の著書を何冊か読みましたが、やはり彼を単純にハト派と色分けすることはできないと思います。

─外務省で開かれた河野太郎大臣の就任記者会見は、李さんも取材されたんですね?

李 これまでも新内閣発足の際の記者会見は何度も取材していますが、今回の外務省での会見はまず河野大臣の就任が決まってから時間を置かずにすぐ開かれたという点で、過去と比べて異例の印象を受けました。

過去の新大臣就任の会見では、組閣人事が確定してからも私たち報道陣は会見場で2時間程度待たされるのが普通でしたが、今回の河野外相は本当に“直後”と言っていいタイミングでカメラの前に姿を現しました。

また入閣以前も河野太郎氏には、例えば原発問題などで「自分の言葉で語る政治家」というイメージを持っていましたが、今回の就任会見でも官僚の用意した原稿を読み上げるのではなく、外交政策の基本方針を語り始めたのが印象的でした。

ただし、私が日中間にある「尖閣諸島の領有権問題について」「その他、どのような課題があると認識しているか」「中国・韓国との関係について、どのような見識で臨むか」といった内容の質問をすると、やや歯切れが悪くなった印象を受けました。

「歯切れが悪くなった」という表現が適切でなければ、それまで自分の言葉で具体的なヴィジョンを語っていた大臣が、個別の案件を持ち出された途端に抽象的な一般論を語り始めた…と言えばいいでしょうか。

私の質問に対する河野外相の答えは、まず「近隣諸国と友好関係を築いていこうという時にどのような問題があるかを最初に考えるのではなく、どのような未来を作っていくかを考えるべきだ」という言葉から始められたのです。

─しかし、本来は「まず、今ある課題を解決した先に未来がある」というのが、具体的な外交の考え方かもしれないですよね。

李 この質問に対する応対から私が感じたのは「ひとりの政治家・河野太郎と、安倍内閣の閣僚の一員という立場を使い分けようとしている?」という印象です。

もしそうだとすれば、過去の“ひとりの政治家・河野太郎”としての発言と今後の閣僚としての言動に矛盾が生じる危険もあると感じました。

こういった点を考えても、河野外相を単純にハト派と色分けするのは表面的過ぎると私は思うのですが、就任直後の中国での反応は概(おおむ)ね好意的なものでした。

─その後、8月7日にフィリピンで開催されたASEAN関連外相会議で中国の王毅外相と河野太郎外相の会談がありました。

李 はい。この会談を機に中国での好反応が大きく揺らいだと言っていいでしょう。中国の南シナ海でのガス田開発などに対して、河野外相は厳しい姿勢を示しました。これに対し王毅外相は「失望した」と発言し、それを中国メディアも一斉に報道しました。

中国の人々の反応は「王毅外相、よく言ってくれた!」というものでした。私としては、そもそも河野外相をハト派と色分けすることに疑問を感じていたので失望はありませんが、今後さらに注視を続ける必要があると考えています。

今年2017年は、1972年の日中国交正常化から45周年に当たります。しかし、外務省はロゴマークまで作って自治体などに周年事業の開催を呼びかけてはいるものの、私の知る範囲では政府間レベルの大規模な祝賀イベントは特に予定されていません。

「日中国交正常化以来、最悪の状況」と言える、今の両国の関係を象徴する現象かもしれません。ぜひ、河野外相に単独インタビューを申し込もうと考えています。

(取材・文/田中茂朗)

●李E(リ・ミャオ)
中国吉林省出身。1997年に来日し、慶應大学大学院に入学。故小島朋之教授のもとで国際関係論を学ぶ。2007年にフェニックステレビの東京支局を立ち上げ支局長に就任。日本の情報、特に外交・安全保障の問題を中心に精力的な報道を続ける

(おわり)