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これが長期にわたり収容されても、ストレスがたまらないスペースといえよう。しかし、難民の人数が多くなった場合、このようなスペースを確保可能な臨時収容施設は限定されるだろう。

さらに、刑務所はしっかりとした衣食住に加え、医療が完備され、夏は扇風機、冬はヒーターがある。また、規則正しい生活を送ることができ、運動する時間も場所も確保されている。

日本人にとって刑務所は快適とは言い難いだろうが、極度な貧困や餓死に直面することがないため、北朝鮮難民にとっては夢のような世界だろう。

筆者は臨時収容施設をめぐる問題の解決策のひとつとして、自衛隊の施設を活用すべきだと考えている。駐屯地や基地は全国にあるうえ、警備上の問題をクリアできるほか、食堂、風呂、トイレ、診療所が揃っている。

とはいえ、自衛隊の施設に収容したとしても様々な経費が必要となる。現在、「災害救助法」で定められている食費の基準は、主食、副食及び燃料等の経費を含め1人1日1110円以内とすることになっている。この基準を適用すると、1万人の難民を受け入れた場合、食費だけで毎日約1000万円が必要となる。

◆工作員も庇護の対象

通訳や収容施設の問題をクリアできたとしても、拠点港での検査の結果、「庇護すべきではない」と判断した人物の処置についても検討しておく必要がある。

これは最大の問題に発展する可能性がある。「庇護すべきではない」とされた人物を北朝鮮へ送還する手段がないからだ。工作員と判明した人物に食料と燃料を渡して、漂着した船に乗せて追い返すわけにはいかない。工作員は何度でも上陸を試みるからだ。

「有事」ともなれば、中国から北朝鮮へ向かう航空便も国際列車もストップしているだろうし、国境も封鎖されているだろうから、北朝鮮へ入国させる手段がないのだ。このような場合、たとえ工作員であっても人道上の措置が必要となる。つまり、収容先が民間人と違うだけで、事実上「庇護」せざるを得なくなるのだ。

◆「経済難民」の流入

金正恩政権が今後数十年にわたり存続し、さらなる権力世襲に成功する可能性は低いだろう。金正恩政権崩壊後の新政権の最高指導者がいかに優れていても、壊滅的な経済の再建や、インフラの整備などに、外国からの大量の経済支援を受けたとしても、どう考えても10年以上はかかるだろう。

新政権下の北朝鮮で就労できなかった人々は韓国や中国を目指すことになるのだろうが、中朝国境は中国軍の国境警備が厳しくなっているうえ、韓国へ向かうにしても、頑丈な鉄条網と約200万個の地雷が埋まっているといわれる幅4kmの非武装地帯を通り抜けるのは容易ではない。

結局、漁船などで韓国へ密入国するしかないわけだが、韓国で就労することの難しさを知っている人々も少なくないだろう。このため、漁船などで日本への密入国を図る人々が出てきても何ら不思議ではない。

日本海を越えてくるのは容易なことではないため、日本に出稼ぎにくる朝鮮人は少数にとどまると予測する専門家もいる。

しかし、日本に不法滞在している韓国人は2015年末の時点で1万3412人にのぼっている。「平時」でもこの状態なのだ。しかも、豊かなはずの韓国からの出稼ぎである。

学歴社会の韓国では、一流大学を卒業した韓国人でも安定した職に就くことは容易ではない。そのような社会で安定した生活を送っている脱北者はごく僅かである。韓国社会に適応できなかったり差別に苦しんだりしているのが実情である。

現在、韓国には約3万人脱北者がいるが、彼らにとって韓国は「安住の地」ではないことは確かだろう。欧州には現在約1200人の脱北者が暮らしているが、彼らは韓国社会の実情を知っていたのだろう。

◆暗躍するブローカー

1989年以降、出稼ぎ目的の中国人がベトナム難民を偽装して「ボートピープル」となって九州を中心に計3498人が上陸している。この中国人(偽装難民)に対応するため福岡入国管理局は大きな負担を強いられた。その結果、2人の職員が過労死している。

この中国の偽装難民を手引きしたのは、「スネーク・ヘッド」と呼ばれる中国の犯罪組織であった。本拠は福建省福州市とも香港ともいわれ、ニューヨークや東京に支部を持つともいわれていた。

「スネーク・ヘッド」の暗躍により、九州地方だけでなく、1992年には静岡県下田市の駅構内で挙動不審の中国人40人が密入国で摘発された。また、緊急手配で、密航者を下田の海岸に下ろしたのが台湾漁船とわかり、逃げる途中、奄美大島沖で海上保安庁に拿捕された。

(続く)