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鄭 国が認めている関東大震災の朝鮮人大虐殺についての有無を議論していることは、大変残念なことです。東日本大震災や熊本地震でも、ネット上では「朝鮮人が毒を入れた」「家に侵入して泥棒を行っている」など悪意を持ったデマが流布し、また現代日本でそれを信じる人が存在したことも遺憾に思います。

なかには、ある地方議会議員がそれを真に受けてネットで拡散するという行動に出ましたが、「人間というのは非常時の環境に置かれると翻弄される側面があるのかな」と考えています。そのため、今こそ関東大震災において朝鮮人を含めて日本人や中国人が虐殺されたことを心に留め、学んでいく必要があります。過去の教訓を改めて確認しておかないと、同じことを繰り返してしまう可能性もあります。

今回の要望文では、あえてドイツのリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー元大統領の言葉を引用し、以下の一文を盛り込みました。

「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目になる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです」

先の大戦でもそうですが、私たちは平和を目指して生きていかなければなりません。人間というのは、ある局面では愚かにもなりますし、過ちも犯します、そこで学びも忘れてしまえば、また同じことを繰り返すのです。

「朝鮮人大虐殺は数の問題ではない」

――古賀議員が「朝鮮人大虐殺の数が6000人であることは不正確である」という意見を出し、それを根拠にするかたちで、追悼文の見送りや追悼碑の撤去を小池都知事に求めました。

鄭 数の問題ではありません。そもそも、関東大震災では14万人以上の死者・行方不明者という通説でしたが、近年になって10.5万人の犠牲者に変わっています。日本でもそうなのです。当時、多くの朝鮮人は労働者として来日しました。今となっては、どのくらいの数の朝鮮人が虐殺されたかを知ることは大変困難です。実際、数千人が虐殺された事実は消しようがありません。

数千人の朝鮮人が人為的に命を奪われたことは歴史的な事実であり、二度と繰り返してはならないのです。

金 どんなに保守的でも、関東大震災においてデマに基づいて朝鮮人が虐殺されたことを認めている方々もいます。ただ、日本をかばいつつ「いつか、朝鮮人大虐殺についてはなくしてしまおう」という政治的意図が見え隠れしています。

ちなみに、在日コリアンと日本人から構成される団体「ほうせんか」のメンバーは、フェイスブックで「前はこの時期になると準備で忙しい半面楽しかったけれど、最近は悪意をもって攻撃する人々の言動に疲れます」と感想を述べていました。

――最近の日本の「空気」については、どうお感じですか。

鄭 北朝鮮のミサイル発射問題でも、日本は危機意識を煽りすぎで、やや恣意的なものを感じます。NHKで「太平洋戦争がなぜ起こったか」という検証番組を放送していましたが、それによると、政治家が国民を扇動したことで取り返しのつかない事態になったようです。

戦争が起きると、最終的な犠牲者は双方の政治家よりも無垢な一般の国民です。今も、そういう状況に近いのかなと感じます。民団は韓国の利益だけを考えているのではなく、綱領にもあるように、日本地域の発展と東洋・世界平和の道を切り開くことが大きな運動方針です。歴史を教訓にし、未来に向けて活動したいと考えています。

――最後に、70周年を迎えた民団東京の将来について。

鄭 日韓友好の機運を盛り上げるためにも、民団の存在感がますます高まっていくと思います。ただし、在日コリアン社会も多様性が求められています。私のように戦前からいる在日コリアンの子孫だけではなく、近年はいわゆる新規定住者も含めてさまざまな境遇の方々が、それぞれ定住して日本社会に基盤を築いています。

ここで、民団がしっかりしないと、在日コリアン社会の根幹が揺らぐ可能性もあります。民団は、在日コリアン社会および日韓の平和と繁栄を願い、共生社会を実現するため、今後も民団は邁進してまいります。

――ありがとうございました。

(続く)