(続き)

日韓問題に詳しい韓国人学者によると、多くの韓国人にとって、過去の日本の植民地支配に厳しい視線を注ぎ、歴史問題に対する日本政府の対応への不満を抱くことと、今の日本文化や日本人個人に好印象を持つことは心の中で矛盾しないのだという。

その「証拠」の一つが、この夏、日本と韓国の外交関係が微妙になっているにもかかわらず、韓国から日本への旅行者は過去最高を記録したことだ。この専門家は「本当に日本が嫌いならば、わざわざ日本に行くでしょうか」と話した。

多くの日本人にとっては、理解しがたい感覚かもしれないが、確かに韓国人の日本に対するまなざしの二重性は、私も日常的に感じているところだ。

だからと言って日本側で、少女像がバスに設置されたことに「理解」を示す人が増えることはないだろうが、一連の動きを日本をすべて否定する「反日」ととらえて、ますます韓国を嫌いになることは早計ではないかと思う。

その点、日本の人々は、韓国について複眼的に見ることが苦手だと思う。その一例として、日本から韓国への訪問客数は伸び悩んだままだ。北朝鮮のミサイル問題も影響しているものの、日韓の外交関係が悪化していることが影響したのは間違いない。

ソウルの日本大使館関係者も「少女像バスの登場で、また観光客が減るのではないか」と分析している。

戦後72年。日韓の歴史認識の違いは、単に植民地支配をした側、された側の目線の違いだけでなく、戦後の歴史や愛国心教育のありようとも絡み、解決は容易ではない。しかし、もしお互いが、お互いの発想の違いを少しでも理解するなら、摩擦は少しは弱まるのではないか。

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武田肇(たけだ・はじむ) 1997年入社。徳島総局、京都総局を経て、大阪本社社会部と広島総局で長く原爆平和問題を担当。2015年から2年間、外務省(霞クラブ)を担当し、今年4月からソウルへ。滋賀県出身の43歳。

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慰安婦を象徴する「少女像」が設置されたバスの車内=ソウル
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慰安婦を象徴する「少女像」が設置されたバス。窓ガラスの説明書きには「バスに一緒に載った少女像を見て、次の世代が正しい歴史認識を持つことを望む気持ちで企画しました」と記されている=ソウル
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「私に法的な問題があるわけではない。日本の官房長官の発言は受け入れられない」と話す東亜運輸のイム・ジヌク社長。9月末まで予定通り少女像を載せたバスを走らせるという=ソウル

(おわり)