諸説あった、あの「冒険」の内容は

束の間の夢に終わったのか――。

安倍官邸はこの間、厳秘体制の下で、安倍晋三首相が米朝の間に立って現在の朝鮮半島の「一触即発」を回避する可能性を探っていた。

具体的に言えば、安倍首相は8月末にも訪米してドナルド・トランプ大統領と会談し、北朝鮮の金正恩労働党委員長との対話を行うように説得、一方で小泉純一郎元首相を首相特使としてピョンヤンに派遣して、その後、自らが訪朝して金委員長と会談することを模索していたのである。

この「秘策」のトリガーとなったのは、7月28日午後、ジャーナリストの田原総一朗氏が首相官邸で安倍首相と会談した直後、官邸詰め記者のぶら下がり取材を受けて語った、「(安倍首相に)政治生命を賭けた冒険をするよう説得した」という件である。

この「政治生命を賭けた冒険」に関しては諸説が乱れ飛び、「10月22日に実施されるトリプル衆院補欠選挙に乾坤一擲総選挙をぶつけるよう説得した」、あるいは北朝鮮の相次ぐミサイル発射によって米朝が「コリジョン・コース」(そのまま進めば全面衝突することになる進路)を突き進むことを回避するため「トランプ、金正恩両氏の仲介役を果たすべきだと進言した」と言われた。

実は後者だった。その実現に向けた水面下の動きを把握していた筆者が確信を持ったのは、8月15日に山梨県鳴沢村(河口湖)の笹川陽平日本財団会長の別荘で開かれた夕食会の出席者に小泉元首相の名前があったことによる。

安倍首相が毎年夏に過ごす河口湖別荘は笹川氏のそれと指呼の間にある。と同時に、安倍首相は2013年8月以降、別荘滞在中には毎夏必ず笹川氏がホストの夕食会に出席している。そしてその会食メンバーはほぼ固定されている。

常連は、森喜朗元首相、茂木敏充経済財政・再生相、萩生田光一自民党幹事長代行、官房副長官時代の加藤勝信厚生労働相、そして日枝久フジテレビジョン元会長である。

ところが今夏は、麻生太郎副総理・財務相と小泉元首相が参加したことで「3首相OBが集合」と話題となった。

森元首相は周辺に「オレが(小泉)純ちゃんを誘ったんだ」と説明しているようだが、小泉氏の出席に違和感を覚えたのは筆者だけではないはずだ。そこから筆者の本格取材は始まった。

小泉元首相に提示した「3点セット」

約2週間弱の取材で判明したことは、

(1)日米2プラス2(日米外務・防衛相協議)出席のためワシントン滞在中の河野太郎外相は8月17日午後(現地時間)、レックス・ティラーソン国務長官と会談したが、後半の約20分は同行の外務省幹部及びノートテイカーを外した所謂「テ・タテ会談」にした。そして帰国した20日に河野外相は安倍首相の私邸で対面報告した

(2)9月4日に予定されていた皇室会議(議長・安倍首相。メンバーは秋篠宮、秩父宮妃、衆参院正副議長、宮内庁長官、最高裁長官など)が急きょ10月に延期された

(3)金杉憲治アジア大洋州局長が8月29日からモンゴルの首都ウランバートルを訪れ、両国安保協議に出席する。同地で滝崎成樹同局審議官が6月15日に北朝鮮外務省のシンクタンク副所長と接触した事実がある

(4)首相の外交ブレーンの谷内正太郎国家安全保障局長が8月26日にサンフランシスコでトランプ大統領が信を置くハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談している

――などだ。

どう考えても怪しい、と筆者の直感はシグナルを発信し続けた。安倍首相は小泉元首相に対し首相特使要請、原発政策軌道修正、小池新党との橋渡しの3点セットを持ちかけていたのではないか。

だが、最終的に分かったことは、この「冒険」に最も熱心だったのは安倍首相最側近の今井尚哉首相政務秘書官であったこと、米側がティラーソン国務長官を筆頭に現在は北朝鮮との対話路線の選択の意思がないこと、日本の金委員長へのアクセスが構築できていないこと、そして最も肝心なことは、安倍首相自身が29日早朝の新型中距離弾道ミサイル発射もあり、米朝仲介に対して時期早尚と判断したことである。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52767

>>2以降に続く)