平成37(2025)年に約38万人のスタッフが不足すると推計される日本の介護現場。不足を補うため、介護施設で外国人の受け入れを拡大する改正出入国管理・難民認定法が1日に施行され、介護福祉士の国家資格を持つ外国人が日本で働けるようになった。

現場では人材の先細りに対応するため、負担軽減や作業の合理化で改善を図るも「理想」とするサービスの質には及ばない状況だ。「いくら人がいても足りない」との声も漏れる中、今回の法改正は“神の一手”となるのか−。介護現場のいまを見て歩いた。(社会部 福田涼太郎)

「人手があれば…」

「どうもありがとうね」

東京都町田市の社会福祉法人「合掌苑」が運営する特別養護老人ホーム。食堂でおやつ後のくつろぎの時間を過ごす入居者の女性から握手を求められ、統括リーダーの介護福祉士、江口寛征さん(40)は差し出された女性の手を両手で優しく握る。

手を離した直後、再び女性から「握手して」と求められ、江口さんはまた応じる。その後も同じやり取りが繰り返される。

その横では黙って挙手し続ける別の女性入居者。女性は声を出すことができないといい、江口さんは50音表を取り出し、用件を指し示すよう促しながら「おトイレですか?」などと質問する。

食堂にいる入居者十数人は、大半が認知症などの重い要介護状態だ。担当職員は法に基づく十分な人数を配置しているが、タイミングによっては排泄(はいせつ)の世話や食器の洗い物などで手がふさがり、即時に反応できないときもある。

その場を歩き回り続ける女性に職員たちは何度も目をやり、ときおり手もつないであげる。理由を尋ねると、この女性は立っているときに体の重心が後ろ側にかかる傾向があり、後ろに倒れれば後頭部などを打って大けがする可能性があるため目が離せないという。

一般的な他施設よりも手厚いサービスができている自負はある。それでも「正直、(対応を)待ってもらってしまうときがある」と江口さん。介護の作業でなくても、清掃や片付けなどのバックアップがあるだけで「全然違う」。

いすに座って、ひたすら同じ動作を続ける女性入居者を見ながら、「例えば手を握ってあげているだけで、落ち着き具合などに大きな効果がある。さらに人手があれば、そうしたプラスアルファの対応ができるのに…」と思いを語る。

新卒採用ゼロの施設も

同施設では通常、入居者88人に対し、日勤帯は常勤11人前後、午後9時〜午前7時の夜勤帯(うち休憩1時間)は4人を配置。起床や食事など多忙な時間帯には非常勤職員を追加配置している。

かつて夜勤は夕方から翌朝まで16時間勤務で、長時間にわたる激務で肉体的、精神的にも厳しかった上、特に女性は「家庭を維持するのが難しい」などの理由で結婚などを機に辞職するケースが相次いだ。

負担軽減のため、6年前に夜勤時間を大幅に短縮。翌年には職員同士が一斉にやり取りできる通信機を導入、情報を瞬時に共有できるようにした。携帯電話を使っていたときのように片手がふさがった状態で、同じ案件で複数の担当に電話をする手間が省けるようになった。

また、職員が自由に思いを語れる個別の面談を全員に毎月30分〜1時間行うようにした。

独自の取り組みが功を奏し、8年ほど前には2割を超えていた離職率が、現在は7%程度まで改善した。

ただ、日本人の担い手の減少はひしひしと感じる。合掌苑では8人程度で推移してきた新卒が昨年度に3人まで減った。今年度は7人に戻ったが、一時的とはいえ初めてのことだった。

他の施設では応募がなく新卒採用がゼロだったところもあるといい、合掌苑お客様相談室の木村繁樹さん(44)は「業界全体で担い手の絶対的な人数が減っている。(入居者の)生活の質を上げるには外国人の雇用は必要。介護には人手が要る」と指摘する。

問題は志の有無

介護分野での外国人受け入れが認められているのは、ベトナム、フィリピン、インドネシアの3カ国と結んでいる経済連携協定(EPA)の枠組みのみだった。

http://www.sankei.com/premium/news/170902/prm1709020020-n1.html

>>2以降に続く)