ドナルド・トランプ米政権が、「6回目の核実験」という臨界点を越えた北朝鮮への軍事行動を踏みとどまっている。放置すれば、狂気の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の恫喝(どうかつ)は増長し、テロリストなどに「核・ミサイル」が拡散する危険性があるのにだ。

背景には、多大な被害と犠牲者が予想される軍事衝突を前に、在韓米国人の避難や、北朝鮮統治の青写真などの「開戦条件」が整わず、軍人であるジェームズ・マティス国防長官らが慎重姿勢を崩さないことが理由とされる。トランプ大統領は決断できるのか。

「(米国は紛争は望んでいないが)米国の忍耐には限りがある」「(国連安全保障理事会は)取り得る最強の措置を採択しなければならない」

ニッキー・ヘイリー米国連大使は4日午前(日本時間同夜)、安保理の緊急会合で、こう訴えた。週内に「最強の措置」となる対北制裁の交渉を進め、決議案を各国に提示、11日の採決を目指す考えだ。

安保理が対北制裁を急ぐのには理由がある。

韓国の情報機関、国家情報院は4日、非公開の国会情報委員会で、北朝鮮が建国記念日(9月9日)や、朝鮮労働党創建記念日(10月10日)に合わせ「ICBM(大陸間弾道ミサイル)を通常角度で発射する可能性がある」と報告、再び日本上空を通過する形でミサイルを発射する恐れがあるとの分析を示した。聯合ニュースが報じた。

正恩氏が朝鮮人民軍に対し、「米国が我慢できなくなるまで圧迫しろ」と指令を出したとの情報もある。

これを裏付けるのか、朝鮮労働党機関紙、労働新聞も4日、金己男(キム・ギナム)党副委員長の「水爆の壮快な爆音は、米国の完全な敗北を改めて宣告した雷鳴だ」との言葉を紹介した。

正恩政権にケンカを売られたかたちだが、トランプ政権は慎重だ。

トランプ氏は3日、マティス氏ら安全保障関連の高官との緊急会議を開いた。マティス氏は終了後に読み上げた声明で、北朝鮮が米本土やグアムなどの米領、同盟諸国を脅威にさらした場合は、「有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」と警告した。ただ、「北朝鮮を抹殺しようとしているわけではない」とも述べた。

在京の情報当局関係者は「スティーブ・バノン元首席戦略官・上級顧問が去って以来、ホワイトハウスは、マティス氏と、ジョン・ケリー大統領首席補佐官、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)という軍人が牛耳っている。彼らは『まだ、軍事行動の条件が整っていない』と分析しているようだ」と語る。

開戦へのハードルは3つほどある。

第1に、軍事衝突の被害は甚大だが、在韓米国人らの避難が進んでいない。

韓国の首都ソウルは南北国境から、わずか40キロ。朝鮮人民軍は軍事境界線付近に長距離砲など300門以上を配備し、日本のほぼ全土を射程に収める弾道ミサイル「ノドン」を数百発も配備済みである。本格的戦争になれば、民間人も含めて100万人規模の死傷者を想定する向きもある。

在韓米国人は約20万人、在韓日本人は約6万人、まだ本格的な非戦闘員後送作戦(NEO)は実行されていない。

「戦争のリスク」を最も知る軍人主体のホワイトハウスだけに、被害を最小限にするまで「GOサイン」は出せないようだ。

第2に、正恩政権崩壊後の駐留・統治プランが不透明という。

世界最強の米軍は、正恩氏の「斬首作戦」を含む、独裁体制殲滅(せんめつ)の「作戦計画5015」を策定しており、その遂行には自信を持っているとされる。ただ、「ポスト正恩」をどうするか、軍事行動後の駐留・統治計画などが懸念されているという。

3代世襲で統治してきた北朝鮮で、金一族以外の人間をトップとした場合、人民の混乱を引き起こす恐れがある。中国が期待した正恩氏の兄、正男(ジョンナム)氏は今年2月、マレーシアで暗殺された。「亡命した正男氏の息子、ハンソル氏が北朝鮮で受け入れられるか、まだ疑問がある」(前出の情報当局関係者)

第3に、中国人民解放軍の混乱。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170906/soc1709060004-n1.html

>>2以降に続く)