◇水産業が唯一の産業 「日本の素晴らしい技術や機械に関心」

夕暮れが近づく北方領土・色丹島の穴澗(あなま、ロシア名クラボザボツコエ)のふ頭を、魚を積んだフォークリフトが滑走する。北方領土で最も開発が遅れた島だったが、8月中旬には新たな桟橋が敷設されるなど徐々に施設整備が進む。島の住民は今、日本との共同経済活動を渇望している。

昨年12月の日露首脳会談で両国は北方領土における共同経済活動についての交渉開始で合意。その後、調査を進め、7日にロシア極東ウラジオストクで行う首脳会談でも対象事案の絞り込みを目指す。

面積約250平方キロ、人口3000人の島では水産業が唯一の産業。「日本の素晴らしい技術や機械に関心がある」。マダラなどを扱う水産加工場のオレグ・マズール工場長は、新工場の建設などに日本の技術を取り入れたい考えだ。

観光業も期待されるが、数十人規模を収容できるレストランは島に1軒だけで宿泊施設はない。それでも手つかずの自然は大きな魅力だ。穴澗湾周辺は緑に覆われ、切り立つ崖が目を奪う。海にはイルカも姿を見せる。

「主な顧客として日本の皆さんに来てもらいたい」。北方領土を管轄するサハリン州のニコライ・スルコフ発展省代表はそう語り、共同経済活動の候補に風力発電なども挙げる。

一方でこんな声も。「共同経済活動で日本ができることは多いが、最も重要なのは日本が参加する意思があるのかどうかだ」。斜古丹(ロシア名マロクリリスコエ)のセルゲイ・ウーソフ村長の言葉には、日本の「本気度」への疑念が透けて見えるようだ。

8月23日には、露政府が斜古丹を経済特区に指定。共同経済活動に頼らないでも北方領土の開発を進めていく。ロシア側はそんなシグナルを送っているのかもしれない。【色丹島で大前仁】

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8月19〜20日にビザなし訪問団の一員として、色丹島を訪れた。

(毎日新聞)

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太平洋を望む浜辺の風景も魅力的だ=色丹島イネモシリで2017年8月20日、大前仁撮影