北朝鮮が9月3日、6回目の核実験を強行したのを受けて米国の姿勢が大きく変化した。それまでは、トランプ大統領が軍事力の行使をほのめかす強硬な発言をすると、ティラーソン国務長官やマティス国防長官火消しに回り、対話に導こうとする動きが一般的だった。

だが、核実験を境に、マティス長官までが「(北朝鮮は)有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」と発言するに至った。米軍が軍事力を行使するとすれば、どのような条件が整った時か。どのような戦闘が行われるのか。

そして、その時、日本はどのような環境に置かれるのか。米国の安全保障政策に詳しい、拓殖大学の川上高司教授に聞いた。(聞き手 森 永輔)

今回の北朝鮮の核実験にはびっくりさせられました。兆候はかねて指摘されていましたが、てっきり、9月9日の建国記念日にぶつけてくると思っていました。

川上:本当にそうですね。びっくりしましたよ。

この核実験を機に、米国の対北朝鮮政策のフェーズが変わったとの印象を受けます。これまでは、ドナルド・トランプ大統領が、軍事力の行使をほのめかす強硬な言葉をツイートする。それを、「対話を希望する」とレックス・ティラーソン国務長官やジェームズ・マティス国防長官が発言することで、“火消し”する――というパターンを繰り返してきました。

しかし、ついにマティス長官までが「有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」と発言するまでになりました。

川上:私も同じ変化を感じています。この変化は、ホワイトハウス内の権力争いが軍人派の勝利に終わり、外交・安全保障政策に一貫性が出てきていることの表われだと思います。

ジョン・ケリー氏が大統領主席補佐官に就任し、スティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問を政権外に“追い出し”ました。これでホワイトハウスは秩序を取り戻した。大統領に面会するためには事前にアポイントメントを取る――という当たり前のことができるようになりました。

娘のイバンカさんも、顧問としてトランプ大統領に会う場合にはアポが必要になったそうですね。

川上:米国の外交・安全保障政策は、ケリー大統領首席補佐官、マティス国防長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の3人が主導する形になりました。いずれも、将軍を務めた軍人出身です。

軍隊の行動は段取りが重要です。対北朝鮮政策も段取り通り進んでいる印象を受けます。例えば、ティラーソン国務長官とマティス国防長官が8月14日、米ウォール・ストリート・ジャーナルに、核・ミサイル問題をめぐって「北朝鮮と交渉する用意がある」と寄稿しました。この時点の米国は、対話を重視する姿勢を北朝鮮に対して強くアピールしていたわけです。

時間を与えるから話し合いに路線を転換するように、との重要なシグナルでした。しかし、北朝鮮はこれを無視した。

さらに、8月29日に日本列島を飛び越えるように弾道ミサイルを発射し、9月3日、ついに6度目の核実験を強行した。明らかに一線を越える行為でした。これにより、米本土を射程に収める核ミサイルの実現まで、残るハードルは弾頭の大気圏突入実験だけになりました。7月には大陸間弾道弾(ICBM)を実験、核弾頭の小型化にも既に成功したとされますから。

米国は、北朝鮮がこの最後の一線を越えるのを2年後と見込んでいましたが、米国防情報局(DIA)の報告によれば来年の早い時期と修正しました。来年の早い時期というと春。米軍はこの時までに、先制攻撃の準備を万全にすると思います。

軍事力の行使はどれくらいの規模が想定されるでしょう。

川上:北朝鮮が保有する戦力の10〜20倍になるでしょう。航空母艦3〜5隻程度を徐々に朝鮮半島周辺に移動させる。仮に3隻とすれば、1隻は朝鮮半島の東岸、もう1隻は西岸に配備。最後の1隻は、中国が台湾や尖閣諸島に手を出さないよう監視の役割を充てます。そして、日本列島が第4の空母の役割を果たす。ちなみに湾岸戦争の時に米軍は6隻を派遣しました。

ただし米国が実行するのはカウンターフォースの戦争です。核施設をはじめとする軍事施設だけが攻撃対象。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230558/090700014/

>>2以降に続く)