これだけ多彩な「活動」を行っていながら、北朝鮮国内の移動や宿泊、食事など一切の費用は、北朝鮮当局が負担した。宿泊先となった平壌最高級ホテルの一つ「羊角島ホテル」では、朝から地元の「大同江ビール」が飲み放題だった。

森氏を含む7人だけは、羊角島ホテルよりもさらに格上の国賓用招待所が用意された。それは、「共和国親善勲章」を授与されたからである。

本誌は北朝鮮当局が撮影した、この一連のイベントの映像を入手したが、洪善玉朝鮮対外文化連絡協会副委員長からメダルを授与された日森氏は、感極まった表情で、洪副委員長とがっちり握手を交わした。

すっかりご満悦で「地上の楽園」から帰国した日森氏に質した。

――北朝鮮がミサイルを連発しているこの時期に、あなたは日本人の国民感情を理解しているのですか?

「国民感情というのは、朝鮮へ行ったこともないような人たちが、日本という安全地帯でワイワイ話しているものでしょう。アメリカと日本は『国際社会』と言うけれど、国際社会全体がアメリカではない」

――それでは、8月29日に北海道上空を越えた北朝鮮のミサイルの脅威を、どう考えていますか?

「朝鮮は日本を攻撃するとは言っていない。そもそも朝鮮は、過去2000年の歴史で、小石一つ日本へ投げたことはない。日本は何度も侵略したにもかかわらずだ」

■ミサイル開発者と笑顔で対話

もう一人、「白頭山偉人称賛国際祭典」に参加した元代議士が、野田佳彦民主党政権時代に法務大臣の重責を担った平岡秀夫氏(63歳)である。'15年5月に政界を引退した後、表舞台から消えたと思いきや、北朝鮮に現れたのだった。

北朝鮮当局が撮影した映像を見ると、「革命の聖地」白頭山でも、金正恩委員長の最大の趣味であるバスケットボール観戦でも、大はしゃぎである。

極めつけは、ミサイルを開発する科学者や技術者たちとの対話集会である。平岡氏は喜々として彼らの説明を聞き、「交流」しているのだった。

平岡氏にも、訪朝の真意を質した。

――外務省は日本国民の北朝鮮への渡航自粛勧告を出していますが、元法務大臣がその禁を破ってよいのですか?

「北朝鮮の要人から、『(渡航の制限が厳しい)日本と違ってわが国は、元法務大臣でも入国を制限していませんよ』と言われたくらいです」

――北朝鮮のミサイルの脅威を、どう考えていますか?

「日本国民が北朝鮮に恐さを感じているように、北朝鮮国民もまた、日本の敵対的な行動に恐怖を感じています。そして北朝鮮側も、国際社会の理解を得たいという想いなのです。私は今回、初めての訪朝でしたが、そのことが印象的でした」

日本では北朝鮮と違って、表現の自由も信条の自由も保障されている。だがそれでも、よりによってこんな時期に、訪朝して金正恩委員長を礼讃するのは、常識外れとしか言いようがない。

「週刊現代」2017年9月16日号より