正気を失っているのか、それとも本当の天才か。

横光利一の短編小説「微笑」に出てくる青年は数学者を自称し、海軍で殺人光線を開発中だという。成功すれば、太平洋戦争末期の不利な戦局を一気にひっくり返せるというのだ

「その武器を積んだ船が六ぱいあれば、ロンドンの敵前上陸が出来ますよ。アメリカなら、この月末にログイン前の続きだって上陸は出来ますね」。

青年の言葉に、周りの人は半分疑いながらも期待を寄せる。驚くような兵器でもなければ日本が滅んでしまうと危惧するのだ

昔読んだ小説を思い出したのは北朝鮮が核実験を強行したとの報に接したからだ。核ミサイルさえ開発すれば体制は滅びないという、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のあせりだろうか。国際社会からの非難を無視する暴挙である

北朝鮮への制裁は強まりつつあり、石油の輸出禁止も取りざたされる。追い込まれる前のあがきが度重なるミサイルの発射、そして核実験なのか。石油を止められ無謀な戦争に向かった過去の日本がだぶって見える

その日の食物を得るため売れるものは何でも売る。北朝鮮から逃れた人の手記を読むと、人々がヤミ市のような場所でかろうじて命をつなぐ様子がわかる。一方で核兵器に莫大(ばくだい)な資金がつぎ込まれる。国民を踏みつけながらの虚勢はいつまで続くのか

迷惑千万な隣国への「怒り」は、尽きることがない。それでも「冷静さ」を併せ持ちたい。始めなくていい戦争を始めてしまった経験が、人類にはいくつもある。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S13116359.html