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安倍首相は、この話に乗った。

その直後の8月3日に内閣改造が実施され、河野太郎氏を外相に起用した。僕は、その日に河野氏に会い、1時間以上かけてこの話をした。すると河野氏は、僕の提案に大いに乗り気になり、すぐに行動に出た。

日本時間8月17日、日本と米国の外務・防衛閣僚協議「2プラス2」が開かれた。河野外相と小野寺五典防衛相は、ティラーソン国務長官とマティス国防長官と会い、個別会議で先に述べた話を懸命に伝えたという。

ところが、ティラーソン氏はその提案を拒否した。だからトランプ大統領はその後、ツイッターで「対話は解決策ではない」と言ったのだろう。

河野氏は帰国後、僕に「残念ながら、うまくいかなかった」と報告してくれた。しかし、河野氏と安倍首相は「もう一度、チャレンジする」と述べ、9月下旬の第72回国連総会の前にトランプ大統領と会い、安倍・河野でもう一度話をすると意欲を示した。

今回、国連安全保障理事会が全会一致で北朝鮮への追加制裁決議案が採択された。

問題は、米国はあくまでも北朝鮮の核兵器放棄を前提とする態度だ。ところが、北朝鮮は核放棄を絶対にしないだろう。イラクと同じ結末になってしまうと分かっているからだ。

どういうことか。イラク戦争が始まる2カ月前、僕はフセイン大統領にインタビューするためにイラクの首都バグダッドを訪問した。

現実味を帯びてきた「最悪のシナリオ」

ところが、フセイン氏側は「田原さんの行動はCIAが全部キャッチしていて、フセイン氏と会った瞬間に爆撃されるから、残念ながら会わせることができない」と述べ、代わりにラマダン副大統領とアジズ副首相に会うことになった。

そこでラマダン副大統領が次のような話をした。

「米国は、我々が大量破壊兵器(核兵器)を持っているとか、アルカイダと深い関係があると主張して攻撃しようとしているが、恐らく本当に攻めてくるだろう。なぜならば、米国は我々が大量破壊兵器を持っていないことを分かっている。もし、我々が本当に大量破壊兵器を持っていたら、米国は攻撃することはない」

核兵器こそ攻撃の抑止力となるということを、北朝鮮はよく理解している。だから、北朝鮮は核兵器を放棄することはない。おそらく、中国とロシアも、北朝鮮が核兵器を持つことを承認して、核廃棄を強く求めないだろう。

米国、中国、ロシアの思惑が根本的に異なっている。ここをどうすればいいのか。日本は、そのあたりの方針がいまいち曖昧だ。表側では「核放棄」を主張しているが、方向性は明確に定まっていない。

これから世界はどうなるのか。思惑が一致しなければ、米国は武力行使する可能性がある。すると、北朝鮮は、米国本土を攻める能力はないから、韓国や日本の米軍基地に攻撃をする恐れがある。

特に韓国は大きな被害を受けるだろう。その最悪のシナリオが、現実味を帯びてきたように思う。

では、回避するためにはどうすればいいのか。

僕は6カ国協議しかないと思う。もちろん、そこまで漕ぎ着けたとしても、米中露の間で話がまとまらない可能性もある。ただし、北朝鮮は米国との話し合いのテーブルに着くことさえできれば、これ以上、ミサイルの発射や核実験をやることはないだろう。

実現は難しいだろうが、対話に持っていくことができなければ、米国が武力行使をする可能性が高まる。これだけは絶対に避けなければならない。

田原総一朗
ジャーナリスト
1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、2010年から「激論!クロスファイア」に出演中。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。
また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。

(おわり)