>>1の続き)

 先制攻撃する場合、米軍はまず第1撃で北朝鮮のレーダー基地とミサイル施設、司令部を叩きます。核兵器の製造工場や倉庫は後回しです。とりあえずは運搬手段であるミサイルを叩かないと、核で反撃されることになるからです。

 でも北朝鮮はミサイルを地下に隠していて、場所の特定が困難です。先制攻撃されても反撃し得る――第2撃能力を持っているのです。

 第2撃能力を消滅させるには過去にミサイルを発射した場所と、隠匿していそうな場所、すべてを同時に攻撃する必要があるのです。ある米軍関係者は「場所を完全に特定できない以上、広範囲に叩ける戦術核も使うだろう」と予測します。

 北朝鮮は8月29日、ミサイル「火星12」を首都、平壌(ピョンヤン)の順安(スナン)国際空港から発射しました。米軍は当然、平壌も先制攻撃の対象とします。

なぜ、北朝鮮は敢えて平壌の空港から発射したのですか?

鈴置:米国に対し「平壌からもミサイルを撃てるぞ。首都という人口密集地を米国は攻撃できるか」と挑発する狙いだったと思われます。もちろん米国は人口密集地だろうと攻撃します。そうしないと米国や同盟国が核攻撃されるからです。

 9月3日のマティス国防長官の「全滅(total annihilation)」発言は「平壌からの発射」への返答だったのかもしれません。

米国の手足は止めよ

北朝鮮はどうするつもりでしょうか。

鈴置:日本で、先制攻撃への反対論を盛り上げると思います。すでに日本に対し「米国に協力したら、核で攻撃するぞ」と脅し始めています。

 先ほど引用した朝鮮中央通信の9月7日の記事は、米国に現状追認を求める一方、日本を威嚇しました。

・日本は自らの立場をはっきりと悟り、これ以上米国の手足として醜悪に振る舞うことは止めねばならない。
・日本反動層に対する骨髄に徹する恨みを抱いているわが軍隊と人民は、米国にへつらって反共和国制裁騒動に先頭で加担してきた現日本当局の罪科まで徹底的に清算する時だけを待っている。
・我々の水素爆弾の実験成功以来、驚き慌てる日本の醜態にはやはり、むかつかざるを得ない。
・人々はそれが軍事大国化実現に拍車をかけるための浅薄な計略と見抜いている。
・日本は、恐ろしい打撃力と命中効果を持った多種多様な原爆と水爆、弾道ミサイルを保有した世界的な軍事強国である朝鮮民主主義人民共和国が、最も近くにあることを心に刻まなければならない。

 最初の2つの文章と最後の1文で「核攻撃されたくないなら米国に追従するな」と脅しました。そして3番目と4番目の文章で「安倍政権の軍国主義化へのたくらみ」を指摘しました。

「北を刺激するな」

隣に登場した核保有国が怖くないのか、ということですね。

鈴置:日本語のネット空間には、この記事が載ったころから「核を持った北を刺激してはならない」との言説が一気に目立つようになりました。北朝鮮の意向に沿って「経済制裁や米国の軍事行動を支持したら大変なことになる」と言い出した人たちがいるわけです。

 それまで北朝鮮に近い人は「日本は対話すべきだ」「米朝の仲介の労を日本がとるべきだ」などと言っていたものですが。

なぜ、彼らは「対話」を言わなくなったのでしょうか。

鈴置:「対話」を言われると北朝鮮が困るからです。強力な核兵器と米国の西海岸に届くであろうミサイル持った以上、北朝鮮はその新たな現状を変えたくはないのです。

対話は程度の差はあれ現状の変更を話し合うわけですから、北朝鮮にとって「百害あって一利なし」です。

 もし、世界で「対話しよう!」との声が高まれば「対話に応じない北朝鮮」の姿が浮き上がってしまいます。だから「対話ムード」が盛り上がらないよう、北朝鮮は「核とミサイルは交渉の対象ではない」と繰り返すのです。

反安倍勢力をテコ入れ

この記事は安倍晋三政権も批判しています。

鈴置: 「日本の軍事大国化」を批判する、日本の反安倍勢力を使って、米国との共闘を止めさせるつもりでしょう。

米国は韓国の協力がなくても「第2次朝鮮戦争」は何とか戦えます。しかし、在日米軍基地と日本の補給力がないと戦えません。北朝鮮もそれはよく分かっていますから、反安倍勢力へのテコ入れに必死なのです。

 日本語のネット空間では「米国も含め世界が平和を望んでいる。戦争を欲しているのは日本の安倍だけだ」という文句も飛び交うようになりました。「やはり、こう来たな」という感じです。

(続く)