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「ここ数年、食堂やカフェがオリンピック景気を見込んでオープンしたところがいくつもありますよ。開催が決まったときはうれしかったけれど、あの崔順実(チェ・スンシル)事件から予定が狂ってしまった。

たとえば、歩道整備は本当ならもっと早くに終わっているはずなのに、あの事件のせいで工事が遅れている。10月末には終わらせないと寒くなって道路が凍ってしまうから、工事現場の作業員はみんな気が気でない」と地元の不動産屋も言う。

崔順実事件がオリンピックに深い陰を落としている

あの事件とは、日本でも大々的に報道された昨年10月に発覚した朴槿恵(パク・クネ)前大統領の友人、崔順実氏による国政介入事件のことだ。朴前大統領が民間人である友人に公務上の機密漏洩をしたとされる政治スキャンダルである。

崔氏は、朴前大統領を後ろ盾に財閥などから賄賂を強要したとされ、贈賄罪などの疑いで現在も裁判が進行中だが、平昌オリンピックの建設利権にもかかわっていたのではないかという疑惑もあった。

結局、疑惑は疑惑のまま終わったが、「崔順実事件から、平昌オリンピックのイメージが下がった。平昌オリンピックというと『利権』のような冷たい視線があって、韓国内でも関心がない。それに、平昌オリンピックは最初のマスコットを決める段階でもゴタゴタしましたからね」(前出の不動産屋)

工事の遅れはソウルでも話題になっていた。平昌郡庁に確認してみると、工事は予定どおりに進められていて、10月末には終了する見込みだと言う。

テグァンリョン村の事務所にも聞いてみたが、「担当者ではないと詳しいことはわかりませんが、工事は予定どおり進められていると聞いています」と話し、地元の人の崔順実事件の影響については苦笑いしながら首を振るばかりだった。

そして、マスコットのゴタゴタとは、朴前大統領が平昌オリンピックを象徴するマスコットを「珍島犬(チンドケンという韓国原産の犬の一種)に」と指示したというもの。

「地元では『はあ、珍島犬は珍島(韓国南部の島)の特産だろう。(北東部の平昌とは関係なく)何を言っているんだ』とため息ついていましたよ。結局、今のマスコットに落ち着きましたけど。朴前大統領と崔順実事件に地元は翻弄された感じです」(同)。

すったもんだの末、平昌オリンピックのマスコットは、朝鮮半島を代表する白虎「スホラン(soohorang)」と地元・江原道を象徴するツキノワグマの「バンダビ(bandabi)」に決まった。スホランは守護=スホと虎=ホラニの造語で、バンダビは、バンダル=半月と対話を象徴するヒ=碑を合わせた名前だという。

盛り上がりはこれから?経済効果はさほど期待できない

「得するのは、江陵(カンヌン)市だけですよ」

こうため息をついたのは、平昌郡庁の所在地・平昌巴(町)で食堂を営む住民だ。

隣村ではスノーボードが行われる予定だが、「潤うのはペンションなどの宿でしょう。食事は競技場近くで取るだろうし、観光はKTX(韓国の高速鉄道)がつながる都会の江陵市を回るだろうから、オリンピック景気とかいわれても、実感は湧かない」(前出の食堂店主)

付近のペンションに問い合わせてみると、すでに海外からの予約が入り始めていて、選手が母親と滞在するため長期間で予約していたところもあった。

平昌郡に隣接する、人口およそ21万人(2017年8月時点)の江陵市。ここではフィギュアスケート、アイスホッケーなどの人気競技が行われる。

オリンピック開催に合わせて江陵市とソウルをつなぐKTXが12月に開通する見込みで、ソウルから70分という地の利も大きい。

江陵市は昔ながらの中央市場が健在な一方、大型スーパーマーケットも進出するなど、今昔の風景が入り交じる街並みだ。江陵市内をぐるりと回ってみたが、ここでもオリンピックのにおいは感じられなかった。

スピードスケートが行われるアイスアリーナなどは江陵市の中心部から少し離れた場所にあり、完成したアイスアリーナの隣ではテントなどの仮設物を設営する、オーバーレイ施設の工事が行われていた。

地元紙の記者が言う。

「秋夕(韓国の旧盆)の連休(10月第1週)が終わった後から大々的にオリンピックのCMが放映される予定で、新聞や雑誌でも特集が組まれます。盛り上がりはこれからでしょう。ただ、当初見込んでいた企業からの寄付が思うように集まっておらず、地元は頭を抱えています」

朴前政権が、財閥との贈賄で倒れてから、企業と政権との文化は完全に変わったという。

(続く)