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マレー半島の華僑系の秘密結社は、19世紀末に現地華僑の間で成立した「華記」という組織の系列の分派や末端組織と、中国南部で長い歴史と組織力を育んだうえで南洋に進出した「洪門」組織の系列の分派や末端組織におおきく分かれ、さらに独立系の小組織も存在する。

現地のネットなどの情報を総合すると、今回の記事で登場した組織では「04党」「369党」が華記系で、「08党」「24党」「360党」は洪門系である模様だ(もっとも秘密結社なので組織の実態は秘密である。特にインド系構成員のことなどはなおさら不明点が多い)。

「洪門」は清朝の時代に満洲族支配に反抗した南少林寺の拳法僧侶をルーツに持つという伝説を自称し、往年は太平天国の乱をはじめとした清末の数多くの反乱に加わって、やがては孫文を助けた(むしろ孫文自身が加入していた)ことでも知られる秘密結社だ。

「洪門」の分派はなぜか中国大陸でも「中国致公党」という共産党の衛星政党として一応は組織を残しているが、往年のアングラさを漂わせた集団ではなくなり、すっかり体制内に組み込まれている。むしろ秘密結社としての「洪門」が表立って活発に活動するのは、マレー半島のような華僑の世界においてなのである。

謎の組織の実態はただの不良学生やヤンキーの集団か、それとも南洋華僑社会に隠然と根を張るチャイニーズ版フリーメーソンか? 不明な点は尽きないが、前近代のディープな組織がいまだに生き残り、老若男女を新たなメンバーとして組み込んでいるという現実は確かに存在する。驚くべき話と言うしかあるまい。

安田 峰俊
ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師。 1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部史学科東洋史学専攻卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。一般企業勤務を経た後、いくつかの職業を経て文筆の道に。
著書に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『野心?郭台銘伝』(プレジデント社)のほか、編集・構成を担当した『だまされないための「韓国」』(浅羽祐樹・木村幹著、講談社)を2017年5月9日に刊行。

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