北九州市小倉北区で30日午後、安倍政権の政策を批判する市民団体の集会が開かれた。その中に、福岡市博多区の主婦(40)もいた。「安倍さんの言葉、今も思い出すたびに怒りが湧いてくるんですよね」

「こんな人たちに皆さん、私たちは負けるわけにはいかない」

東京都議選最終盤の7月1日。自民党候補者の応援のため、JR秋葉原駅前でマイクを握った首相安倍晋三は、演説をかき消さんばかりの「帰れ」「辞めろ」コールを繰り出す聴衆に指をさし、そう叫んだ。

「レッテルを貼られた」。テレビニュースで見た主婦は当時、そう感じた。

2013年から福岡市内の寺に有志で集まり、憲法に関する勉強会を続けている。特定秘密保護法、安全保障法制、「共謀罪」法の成立に反対してきた。

そうした政策以上に気になるのは安倍の姿勢だ。「自分の意見に反対する人間を『こんな人たち』と、別のカテゴリーに入れてしまう。みんなの総理なのに」

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「やじを飛ばす前に、まず話を聞くべきだ。安倍さんの気持ちはよく分かる」

福岡市西区の派遣会社員の男性(36)は、安倍の言葉に理解を示す。秋葉原での演説当日、「逆風の中、力強いご声援を賜り心から感謝いたします」と記した安倍のフェイスブックに、会社員は「いいね!」のボタンを押した。

15年まで東南アジアで暮らした。首相が毎年のように交代する理由を現地の友人にいつも尋ねられた。再チャレンジで復権を果たした安倍の「実行力」に好感を覚え、憲法改正や安保政策にも賛同し、投稿をフォローするようになった。

大義がない、疑惑封じ−。野党から上がる批判に、会社員は首をかしげる。「野党こそレッテルを貼っている。批判ばかりでは有権者の理解は得られない」

首相安倍晋三の東京・秋葉原での演説はインターネット上で“炎上”したが、安倍自身、意に介しているふうはない。むしろ、自ら渦中に飛び込む。

安倍が前回、衆院を解散した2014年11月。大学生がネット上で小学4年生になりすまして解散を批判する書き込みをし、謝罪した際には、自身のフェイスブックに「批判されにくい子どもになりすます最も卑劣な行為だと思います」と書き込んだ。

その後削除したが、一国のリーダーが一学生をネット上で攻撃する姿には賛否が入り乱れた。

拉致問題で対立した元外務省幹部を名指しで批判する一方、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と批判が強いネット掲示板をシェア(共有)する。思想や立場に基づき「敵か、味方か」と峻別(しゅんべつ)する政治姿勢は、歴代宰相の中でも際立つ。

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「ネトウヨ」(ネット右翼)、「ブサヨ」(ブサイク+左翼)−。インターネット上で飛び交う右派、左派それぞれの蔑称だ。安倍の言動も相まって対立は先鋭化し、議論がかみ合わないまま「親安倍か、反安倍か」という視点で全てを判断する傾向も見られる。

そんな対立を、長崎県諫早市の自営業男性(38)はどこか遠くに感じている。「どうもぴんとこないんです」。安倍の秋葉原演説には「共感も反感も感じなかった」。周囲では話題になっていない。

「政治には関心があるけど、右とか左とかはどうでもいい。日々の生活や教育、財政など、もっと重要な話があると思う」

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最前線にあって、自らを振り返る人も出てきた。

「安倍支持者の生活や思想の背景に目を向けず、相手に響く主張ができなかった」。そう語る明治学院大大学院2年の林田光弘(25)=長崎市出身=は、安全保障法制反対などを訴えて時代の寵児(ちょうじ)となり、昨年解散した若者グループ「SEALDs(シールズ)」の元メンバーだ。

「互いのステレオタイプをつくって、相手をラベリングして単純化する。分断は世界の潮流です。でも、敵か味方かという見方はまずい」。衆院選では、全ての党の主張に耳を傾けようと決めている。

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/representatives_election_2017_news/article/364987

>>2以降に続く)