安倍首相の「国難突破解散」による衆議院総選挙が10月10日に公示された。安倍首相は街頭演説で北朝鮮の脅威を強調し国民の不安を煽り、安倍政権の継続が必要だと強調している。しかし、この大仰な「国難」の真相とは何か。孫崎享氏はそこに米国の意図があると指摘する。

◆「北朝鮮」で支持率回復

北朝鮮の脅威にどう対応するかは、日本の外交・安全保障政策の重要課題というだけではない。日本政治の動向にも深く関与する問題となっている。

9月25日、安倍首相は衆議院を解散する意向を表明した。その際、「少子高齢化、緊迫する北朝鮮情勢、まさに"国難"とも呼ぶべき事態に、強いリーダーシップを発揮する」と述べ"国難突破解散"」と訴えた。ここでいう「国難」とは北朝鮮の脅威を意味する。

北朝鮮の脅威が表面化する前、安倍政権は瀕死の状態にあった。毎日新聞は、7月22、23の両日、全国世論調査を実施したが、安倍内閣の支持率は26%で、不支持率は12ポイント増の56%だった。この支持率が持ち直したのは、北朝鮮問題の危機が先鋭化したからである。北朝鮮問題の危機と安倍政権への支持は表裏一体の関係にある。

北朝鮮は最近、ミサイル発射実験、核兵器開発を強化してきている。9月15日朝、北朝鮮からミサイルが発射され、北海道地方を通過し襟裳岬の東約2000kmに着水した。「襟裳岬の東2000kmに着弾」と聞いて、「大変だ」と思った人も多いだろう。

◆リアリティ無い「国難」

だが2000kmとは相当な距離なのである。東京−北京は2090kmである。米中関係が悪化して米国がハワイあたりから北京にミサイルを発射し日本上空を飛んだ時、日本国民が避難訓練するようなものである。ベルリンとトルコの首都アンカラが2030kmである。

ロシアが北極周辺からベルリンの上空を通ってアンカラをミサイル攻撃した時、ベルリンの住民が避難訓練をしているようなものである。これが「国難」の実体である。

北朝鮮が、ミサイルを持ち、核兵器を持ったからと言って、即、北朝鮮が日本を攻撃するわけではない。歴史を見てみれば、冷戦時代ソ連にスターリンがいて、中国に毛沢東がいた。彼らは核兵器やミサイルを持っていた。そして共産主義革命を目指していた。我々は「国難」と騒いでいただろうか。

◆国連憲章を踏まえるべき

北朝鮮のような中小国が核兵器を持った時にどのように対処するか。こうした問題は、核兵器が開発された時から、米国の軍事戦略家によって議論されてきたことである。こうした議論を踏まえ書かれた、核戦略論の古典的な本がキッシンジャー著『核兵器と外交戦略』である。

彼は次の様に記載した。

第1原則:核兵器を有する国は、それを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう。

第2原則:一方で、その生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険を冒す国もないとみられる。

第3原則:無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠を作ることが、米国外交の仕事である。

北朝鮮のような国が、他国から攻撃を受けていないのに他国を核兵器で攻撃すれば、その国は確実に米国等国際社会によって破壊される。他方、自分の国が軍事攻撃によって破壊される時には確実に、攻撃する国々に核兵器の使用を行う。こうした状況であれば、北朝鮮のような国には「政権、指導者を軍事的に抹殺することはない」と確証を与えてあればいいとするものである。

この考え方は昨日、今日出てきたものではない。第2次大戦以降の国際約束の基本である国連憲章を見てみよう。

第2条3.「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」

4.「すべての加盟国は、武力による威嚇又は武力の行使を、慎まなければならない」

第51条.「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」

http://www.jacom.or.jp/nousei/closeup/2017/171012-33813.php
農業協同組合新聞

(続く)