11月にスイス・ジュネーブで開かれる国連人権理事会を舞台に、中国と韓国が慰安婦や徴用工をめぐる歴史問題で日本への攻勢をかけてきそうだ。特に今年5月に就任した文在寅大統領が日本の朝鮮半島統治時代の徴用工に絡み個人の請求権は残っていると発言した韓国は対日批判を先鋭化する恐れがある。その根拠として悪用されそうなのが国連特別報告者のリポートや発言だ。

 日本に対する審査となる作業部会は11月14日に行われる予定で、外務省が神経をとがらせるのは韓国への審査が5日前の9日となることだ。参加各国は審査対象国の人権状況に関して発言する機会があるが、どこまで踏み込むかの判断を迫られる。9日の審査で韓国の人権状況を糾弾すれば、14日の対日審査で激しい報復を受けるかもしれない。

 総務省や外務省の幹部によると、11月にも出る勧告に法的拘束力はないが、政府は受け入れるかどうかの判断を迫られる。

 対日審査は平成20(2008)年と24(2012)年に続いて今回が3回目。前回は慰安婦問題で韓国と北朝鮮が補償を求めた。また、中国は「日本は謝罪していない」などと対日批判を繰り広げた。

 国内外のNGO(非政府組織)の一部が国連などの国際会議を舞台に日本政府の政策を批判したり、政権を糾弾したりするケースが起きている。こうしたNGOが中国や韓国だけでなく、作業部会に提出する国連文書やNGOの情報をまとめる国連人権高等弁務官事務所に対し、問題提起するよう水面下で働きかけている可能性がある。

 NGOは作業部会では傍聴するだけだ。しかし、報告書が確定する来年3月の国連人権理事会で発言する機会があり、政府は今秋から来春にかけて国際世論を誘導しようとする内外の圧力に直面することになる。

 政府関係者は審査について「『人権に関係がある』ということであれば、あらゆることを取り上げることができる」と話しており、政府は歴史問題以外のテーマでも対日批判が噴き出すのではないかと警戒している。このため政府は総務省、法務省、外務省、厚生労働省などの職員をジュネーブに派遣し、審査に備える。

 今年に入り、プライバシーに関する国連特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪の構成要件を厳格化したテロ等準備罪の新設に懸念を表明した。また、表現の自由に関する特別報告者、デービッド・ケイ氏は歴史教科書検定からの政府の影響力排除や放送メディアに対する政府の圧力があると主張し、沖縄県名護市への米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設反対運動への対応を批判する報告書を公表した。

 このため11月の対日審査では歴史問題に加えて、教科書検定制度、テロ等準備罪、放送メディアの報道の自由、沖縄の米軍基地反対運動などが取り上げられるとみられる。

 国連の特別報告者をめぐっては、スリランカの法律家、ラディカ・クマラスワミ氏が8(1996)年に提出した慰安婦を「性奴隷」と決めつけた報告書が国連の人権関係の委員会などで対日批判の根拠となっている。

 対日審査は、全ての国連加盟国を対象に人権に関する政策や状況を検証する普遍的審査制度に基づき実施される。加盟国は4年から5年ごとに審査を受ける。国連人権理事会が予定している今回の審査期間は11月6日から17日までで、対象となるのは日本を含めて韓国、ウクライナ、チェコなど14カ国に上る。

(政治部編集委員 笠原健)

2017.10.16 08:00
http://www.sankei.com/premium/news/171016/prm1710160009-n1.html