アジア最大級といわれる第22回釜山国際映画祭(BIFF)が10月12日から開幕(21日まで)。映画大国・韓国では恒例だが、チケットボックスには早朝から映画ファンの大行列ができ、オープニングセレモニーは会場周辺まで埋め尽くした大観衆による熱気に包まれていた。

そんなBIFFだが、出品作品は昨年に続いて今年も日本映画がとくに多かった。

各部門への招待作品が多いほか特集上映2本も

今年話題の新作を上映する、映画祭のメインのひとつになるガラプレゼンテーション部門には、全5作中に松本潤と有村架純が出演する『ナラタージュ』、福山雅治が主演する『三度目の殺人』、中山美穂とキム・ジェウクが共演する『蝶の眠り』(日韓合作)。

アジア映画の窓部門には『羊の木』『あゝ、荒野』『彼らが本気で編むときは、』『彼女がその名を知らない鳥たち』など。

New Currents部門には『散歩する侵略者』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『リングサイド・ストーリー』『光』『美しい星』『アウトレイジ 最終章』など。オープンシネマ部門には『君の膵臓をたべたい』『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』。

ワイドアングル部門アニメーションショーケースには『メアリと魔女の花』が招待されたほか、アニメでは湯浅政明監督の特集上映も。

さらに、今年2月に亡くなった鈴木清順監督が「The Asian Filmmaker of the year」に選ばれ、オープニングセレモニーで行われた授賞式には岡田裕プロデューサーが登壇し、

「鈴木清順監督は、日本映画の王道ではなく、独自の表現方法で映画世界を作り上げた。生きていれば94歳。この受賞を大変光栄に思うことでしょう」とあいさつ。特集上映も行われた。

また、会期中の舞台あいさつやアウトドアステージなどでのトークイベントには、蒼井優や菅田将暉、行定勲監督など韓国でも人気の日本人俳優や監督が多数ゲスト参加して会場を盛り上げるなど、日本映画が存在感を放っていた。

背景に日韓双方の映画界の思惑が合致した動き

この背景には、韓国映画界が釜山市と対立し、BIFFと距離を置いていることがある。

日本から参加しているバイヤーは「2014年のセウォル号事件のドキュメンタリー上映を巡る市の政治的な介入に端を発し、昨年からメジャー映画会社が公開前の新作を出品せず、スター俳優や人気監督らの参加も一部を除いてほぼない状況。

その流れのなかで、映画祭を盛り上げる作品を集めたいBIFF側は、韓国でも人気のある日本映画、日本人俳優に着目したのでしょう」という。

日本からの出品作は、すでに公開中の作品がほとんどなのだが、少しでも作品宣伝をしたい日本映画側にとってもメディアに載る絶好の機会であり、また日本から近いこと、韓国映画好きの日本映画人が多いことから、ゲストも参加しやすい。そういった日韓双方の思惑が合致しての動きになっている。

その根底には、韓国を含めアジアにおいてコツコツと築き上げてきた、映画を含む日本コンテンツの強さがある。

間もなく開催される東京国際映画祭では、世界中の良質な映画が集まるなかで、日本の新作も多く出品される。BIFFでにじませたアジアのなかでも際立つその強さに、より注目が集まることを期待したい。

(文:編集部・武井保之)

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