安倍政治への注文/上 リベラル外交継続を=政治部編集委員・平田崇浩

保守か、リベラルか。

そんな政治用語が注目された衆院選だった。

安倍晋三首相といえば、保守のイメージが強い。だが、この5年間の安倍外交を振り返るとリベラルの方が当てはまる。

2015年の米議会演説と戦後70年談話、旧日本軍の慰安婦問題に関する日韓合意、昨年のオバマ前米大統領の広島訪問と安倍首相の真珠湾訪問−−。

これらの根底に通じるのは、戦後の和解を確実なものとし、米欧が築いてきた戦後の国際秩序を支持する側にあろうとする外交姿勢だ。

定義の仕方にもよるが、外交における保守とは、自国の文化や制度、権益を守ることを優先する意味だとすることができよう。リベラルとはその逆で、他国の文化や人権を尊重し、共通のルールや価値観に基づく国際協調を優先する。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など自由貿易を推進するのもリベラルだ。相互に市場を開放し、拡大した市場の恩恵を国際的に分かち合う発想に基づく。

リベラルな外交政策は、経済・社会的に不満を抱える層から「他国民より自国民を優先しろ」との批判を招き、体制が不安定化する懸念がある。その反動で保守が行き過ぎれば、自国第一主義や排外主義につながる。トランプ米政権がそれだ。

そのトランプ大統領に自由と民主主義、法の支配という戦後国際社会の共通の価値観を尊重し、保護貿易主義に陥らないよう求めているのが安倍首相だ。

経済・軍事の両面で台頭する中国は米欧中心の戦後秩序に挑戦し、中国が主導権を握る新たな秩序の構築を狙う。中国からみれば、戦後秩序を守る側に立ち、そこに中国を封じ込めようとする安倍外交は「保守強硬」「タカ派」と映る。

日米同盟を強化し、米国のほかの同盟国とも協力して軍事的な中国包囲網を形成する。TPPはその経済版だった。米国が戦後秩序を守る側にあるうちはいいが、アジア太平洋地域への関与を低下させる「TPP離脱」のような事態になれば、安倍外交の前提が崩れる。

だから、米国を地域につなぎ留めるため米軍と自衛隊の役割分担を強化してきた。集団的自衛権の限定行使を可能とした安全保障関連法の制定もその一環に位置付けられる。

北朝鮮問題も同じ構図だ。「全ての選択肢が机上にある」と軍事攻撃も辞さない米国の強い関与が最大の圧力となる。そう理解はできても「トランプ頼み」の現状には危惧を覚える。

圧力が過ぎれば「米朝開戦−日本参戦」の懸念も強まる。自国第一主義のトランプ政権を首相は制御できるのか。逆に米国が北朝鮮の核保有容認に傾く事態も警戒しておかなければならない。その場合に北朝鮮問題で中国やロシアと連携する準備はできているのか。

首相は北朝鮮の脅威を理由に衆院解散・総選挙に踏み切り「国難だから強い外交力を与えてほしい」と訴えた。外交力とは国際社会と協調して問題を解決する力だ。米国と一緒に戦争をする「力の外交」を白紙委任されたわけではない。

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第1次政権も含め10年間に及ぶ長期政権が視野に入った安倍首相に対し、三つの視点から注文する。

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171025/ddm/002/010/138000c

http://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/10/25/20171025ddm001010005000p/7.jpg
トランプ大統領(右)との最初の日米首脳会談後、共同記者発表で北朝鮮のミサイル発射を非難する安倍晋三首相=米フロリダ州パームビーチで2017年2月11日、代表撮影・共同