開かれた新聞委員会 座談会 偽情報に対抗措置を 分極化するネット社会

いつでもどこでも、誰でも情報を発信できるようになり、虚偽の情報でさえも容易に社会に浸透する時代になりました。ネット上の言説が必ずしも世論を反映したものではない状況も生まれています。

新聞メディアは社会の現実をどのように報じ、どのような報道を心がけたら良いでしょうか。緊迫する北朝鮮情勢の報道と合わせて、「開かれた新聞委員会」で議論しました。【司会は照山哲史「開かれた新聞委員会」事務局長、写真は宮間俊樹】=委員会は10月11日開催。

座談会出席者
池上彰委員 ジャーナリスト・東京工業大特命教授

荻上チキ委員 評論家・ウェブサイト「シノドス」編集長

鈴木秀美委員 慶応大メディア・コミュニケーション研究所教授

吉永みち子委員 ノンフィクション作家

毎日新聞社側の主な出席者
小川一・編集編成担当▽小松浩・主筆▽松木健・東京本社編集編成局長▽末次省三・同局次長▽鯨岡秀紀・統合デジタル取材センター長▽小倉孝保・外信部長▽磯崎由美・社会部長

「主導者」は1%

小松浩主筆 今日はネット社会における新聞メディアのあり方を議論していきます。政権の基盤を揺るがすことや歴史認識、民族差別の話には両極端の意見が寄せられます。正しい情報をどのように伝えるのかは多くの新聞が抱えている最大の問題です。

鯨岡秀紀統合デジタル取材センター長 8月の内閣改造時の会見で、安倍晋三首相が加計学園問題などについて「丁寧な説明をします」と言ったことを受け、9月2日に丁寧に説明したのかを問う記事を書きました。

ネット上では「まだ引きずる気か」「日本をおとしめる報道はやめてくれ」という反響がありました。しかし、本社の同時期の世論調査では、加計学園問題について「関心が増した」という人の方が多かったのです。このギャップには戸惑っています。

磯崎由美社会部長 小池百合子東京都知事が関東大震災での朝鮮人虐殺の慰霊式への追悼文を取りやめました。都議会内に虐殺された人数を問題視する声があったのがきっかけですが、知事会見では虐殺の有無に対する微妙な発言をしました。

朝鮮人虐殺は国も「関東大震災の全体の犠牲者の1〜数%」としています。一連の記事についてネット上の読者からは知事に対し「本性を出してきた」といった批判があった一方、虐殺に否定的な人々からは「よくやった」という称賛もありました。過去の行為がなかったようになる流れをどうお考えですか。

荻上チキ委員 メディア論や流言を研究し、2004年からブログをしながらネット上での流言を検証してきた。流言がどうして広がるのかについては、G・W・オルポートとポストマンという社会心理学者による分析がある。「人々の関心の高さ(重要性)とあいまいさのかけ算で決まる」というものだ。

 人々の関心が高まる中、適切な情報が届かないと、偽情報であるデマに人々が飛びつき、流言が拡散する。流言は多くの人が確からしいと感じるものがあると受け入れられる。マスメディアをはじめとした社会的公平さを目指すメディアは、あいまいな情報を止め、流言を広めないようにすることが重要だ。

 対抗するのは面倒だが、書き込む側のゴールは、相手に面倒だと思わせて黙らせること、大手メディアに圧力をかけて発言させないことにある。しんどいことに応答するのが言論の役割だ。

 また、ネット上でのニュースへのコメントの半数近くは、わずか1、2%の人によるもの。政治的な書き込みの大多数はネット上の少数のオピニオンリーダーのコメントをリツイートしたり、シェアしたりするもので独自に投稿されたものは少ない。

 オピニオンリーダー同士は立場を交えないため、分極化した集団になる。投稿が容易になったことで分極化する速度感や規模が変わった。

松木健編集編成局長 「メディアはあいまいな情報を止め、流言を広めないように」との話だが、意図をもった書き込みに対抗するには、こちらも相当な精力が必要です。

https://mainichi.jp/articles/20171017/ddm/010/040/065000c

>>2以降に続く)